2007年02月02日

この記事をクリップ! Yahoo!ブックマークに登録 このエントリーを含むはてなブックマーク

『レクイエム―「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち 』5

伯野 卓彦著 2007年1月30日発行 1700円(税抜き)

レクイエム―「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち

レクイエムとは日本語では鎮魂歌ですが、本書は「長銀」(日本長期信用銀行、現在は新生銀行)の破綻の物語です。著者は、NHKのプロジェクトXのディレクターです。となると、ある程度内容が想像できる方もいるかもしれません。

私の出身地では、長銀の近くに用事があってタクシーでいくときなど、「チョーギンの角を曲がってください」とタクシーの運転手さんに伝えると、しっかり通じていました。昔の「チョーギン」だった店舗は、現在では新生銀行のしゃれた店がまえになっています。

子供の頃は、「チョーギン」というのが銀行だとはわかりませんでした。近くに他にも銀行がありましたが、「チョーギン」は店舗の感じが明らかに「三和銀行」や「富士銀行」などとは違い、敷居の高そうな重厚感がただよっていたせいかもしれません。

本書では長銀が国策銀行として、戦後の高度経済成長をいかに支えたかに始まり、その後、バブル時代にどのように不動産融資にのめり込んでいったかという話が展開します。バブルの頃、戦後は銀行の間接金融に資金需要が旺盛だった企業が力をつけてきて、自ら社債の発行やエクイティファイナンスで資金調達できるようになりました。

そのため銀行の貸出先がなくなってしまい、プラザ合意後の円高・内需拡大によって生じた不動産価格の上昇が生じたことが加わり、各銀行が日本の土地神話に乗っかって、不動産関係の融資を拡大し、それがまたバブルの泡をふくらませるという循環が形成されました。

1990年になり、株価の暴落、そしてその後の不動産バブルの崩壊となりましたが、当時は、初期にはバブルの崩壊というより、上昇過程での一時的な調整局面との見方が主流だったようです。私も当時の雰囲気を何となく覚えていますが、1991年頃は普通の生活感覚では、まだまだ悲壮感というにはほど遠い様子でした。

バブルや不良債権という言葉は最近は日常語となりましたが、過去に景気が悪くなっていく過程で、「バブルとは」「不良債権とは」といった言葉自体が、ニュース番組やワイドショーなどでしばしば説明されていました。いまではそれらの言葉自体は多くの人が知っているように思います。15年くらい前と比べると日本人の経済に対する視点はかなり進歩していると思います。

本書のテーマは、いかに当時の長銀マンが不良債権の処理と格闘したかということで、当時の主だった関係者のインタビューに基づいて書かれています。本書のような本が出版されることにより、当時は世間の非難の嵐にさらされながらも、使命感を持って業務を遂行されている途上、志半ばでお亡くなりになられた方が、少しでも浮かばれるように思います。本書には読んでいて胸が熱くなるものがあります。

昔は銀行はDCFなど行っておらず、土地さえ担保に取れば、キャッシュの流れなど見ていなかったなどということが言われていますが、本書を読む限りにおいては、少なくとも長銀に関しては、バブルの時代を除いて、しっかりとお金の流れを審査していたということなどがわかります。

現在、日本の銀行の不良債権処理は、ほぼ終了したと考えてよいと思われます。過去において日本に高度成長をもたらし、世界第2の経済大国にしてくれた、日本型金融哲学は時代の流れとともに変化せざるを得なくなりました。今後は、ようやく長いトンネルを抜け、健全化・効率化された金融システムにより、日本経済は発展する可能性が出てきました。過去の金融システムに対しては、否定的な評価がなされることが多いですが、先人の努力や苦労については、評価するべきところはしっかりと評価して先に進むのがよいような気がします。

本書のような書物が出版されるということは、長かった不良債権の処理がようやく終わり、今後新たなシステムで、日本の金融が発展する本格的な準備ができたという時代の流れの象徴かもしれません。



investmentbooks at 23:03│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--日本経済 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
プロフィール
bestbook
家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
このブログについて
2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
ブックマークに登録
このブログをソーシャルブックマークに登録
このブログのはてなブックマーク数
アマゾン検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
あわせて読みたい
あわせて読みたいブログパーツ