2007年02月20日
『石油を読む 第2版』
藤 和彦著 2007年2月15日2版発行 830円(税抜き)
第1版はちょうど2年前に発行されています。本書は第2版ですが、ここ2年の原油をめぐる世界情勢の急激な変化を反映して大幅に改訂されており、別の本といってよいほど内容に違いがあります。そのため、2年前に第1版を購入したのですが、今回再び購入しました。
本書ではタブタイトルに「地政学発想を超えて」とあるように、石油を「戦略的物質」ではなく「市況商品」ととらえた方がよいとの主張です。本書の読みどころは一般的な「石油神話」の誤解を丁寧に解いていくところにあります。「石油神話」とは
- OPEC、メジャーなどが市場を支配している
- 石油埋蔵量はピークアウトして近い将来枯渇する
などです。
著者によると石油の供給は、技術革新なども期待されるため、十分に足りているそうです。石油の市場では価格支配力をもつものはいなく、商品として流動性、再分配機能が高いため、世界が地政学的な視点から石油を過剰に「戦略物質」として見なさなければ、石油の将来に対してはあまり心配することがないということが本書の重要な論点の一つです。
日本が取る戦略としては
- 石油自体ののポートフォリオを分散する
- 天然ガスなどエネルギー物質自体のポートフォリオを分散する
ということを述べられています。
たしかに世界が著者のいうことを冷静に理解できれば、あまり心配することはないと思います。しかしながら、ここ2年の原油価格の高騰でもわかるように、石油価格の変動に関しては、心理的な要素が大きく、今後も価格の乱高下はあるのではないかと思います。
また、行き過ぎなければ、原油価格の上昇が望ましいと思っている人が多くいることも見逃せません。原油の価格が上がれば、インフレ傾向になります。インフレ傾向になれば、中長期的には株価などの資産は上昇するでしょうから、資産を多く持っている「お金持ち」は資産価値が増えて喜ぶ人もいるかもしれません。
結局損をするのは、広く薄くコストを負担する一般消費者です。そのような意味では、原油価格の上昇は、消費税の引き上げに似ている点があります。しかしながら大きく異なるのは、消費税は税金として経済的に豊かでない人に公共サービスなどにより再分配されますが、原油価格の上昇は資産価格の上昇を招き、持つものと持たざるものの格差をより拡大させるという点です。