2007年10月13日
『1997年――世界を変えた金融危機』
竹森 俊平著 2007年10月30日発行 756円(税込)
良書です。内容が面白く充実しており、タイムリーな面もあるので、ベストセラーになる可能性はあると思いますが、タイトルがややアピール力に欠けるかもしれません。
1997年のアジア金融危機がタイトルの由来ですが、内容は世界経済の金融におけるリスクと不確実性が本書の本質的なテーマであり、日本の不良債権問題や最近のサブプライム問題につても考察されています。
本書のメインテーマである、シカゴ大学の経済学者であるフランク・ナイトが提唱した「リスク」と「不確実性」の違いについてですが、確率分布が思い描けるものが「リスク」、思い描けないものが「不確実性」と定義されています。
本書では北朝鮮がミサイルを発射することが「不確実性」の例として挙げられています。たしかに確率分布を想定することは難しそうです。
「不確実性」が「リスク」と別の概念として存在するかどうかは議論があるようですが、本書ではその議論についても言及されています。「不確実性」の本質は人間が予測できないことなので、やはり概念として有用であるように思います。
多くの事例があると「不確実性」も「リスク」になりますが、なんらかの突発的事象によって想定された確率分布の形が変わることも「不確実性」であるように思います。「不確実性」は「リスク」のメタ概念なのかもしれません。同じレベルでは「不確実性」は「リスク」に包含されてしまうのかもしれませんが、レベルが違うとするとやはり「不確実性」は概念として有用です。
本書のもう一つのテーマとして、金融市場における流動性の問題があります。今回のサブプライムの問題についても、世界の中央銀行が協調的に市場に流動性を供給したことにより、今のところ小康状態を保っています。
流動性が供給されているということは、市場にマネーがだぶついているということです。今回のサブプライム問題が鎮静化するようであれば、その後のだぶついたマネーは果たしてどうなるのでしょうか?