2008年02月07日
『打たれ強くなるための読書術』
東郷 雄二著 2008年2月10日発行 714円(税込)
著者はフランス語、言語学を専門にされている方です。本書と同じちくま新書で『独学の技術』という本も書かれており、本書はその本で部分的に述べられていたことを「大幅に発展させた」ものだそうです。
タイトルにある「打たれ強くなる」というのは、「知的に」打たれ強くなるということです。最近の大学生は「知的に打たれ弱くなっている」そうであり、以下のような症状があります。
- すぐに解答を欲しがる
- どこかに正解がひとつあると信じている
- 解答に至る道をひとつ見つけたらそれで満足してしまう
- 問題を解くのは得意でも、問題を発見するのが不得意である
- 自分の考えを人に論理的に述べる言語能力が不足している
これらからもわかるように、本書は主に大学などの知の現場における知的思索についての読書に焦点が当てられています。職業的に論文のような知的に質の高い書を読み、そのインプットを思索により練り上げた上で付加価値をつけてアウトプットを行う人向けの内容です。
本書で紹介されている本も、言語学や現代思想などの本が中心になっており、直接はビジネスなどで役に立つ本ではありません。しかしながら、わからないことにすぐ結論を出そうとしないという主張などは参考にできると思います。
本と長く関わってきた著者が書かれているだけに、本についてのさまざまな思い入れが感じられ、ふだん行っている読書について見直すことができます。
読書の目的、探し方、買い方・借り方、本への感度を上げることについて、読み方、本の内容の活用方法などについて、いくつかの本を参考にしながらも、著者オリジナルの内容になっています。そのあたりが本書の読みどころです。
以前にも書いたことがありますが、本には知・情・意それぞれに訴えかけるものがあります。知に作用する本は読んだ後に自分の認識を深めるきっかけになる本、情に作用する本は感動する本、意に作用する本は意欲が湧いてくる本です。
本書で述べられているのは主に知に作用する本についてですが、本当の良書は知情意すべてに働きかけると思います。知的な本でも感動することもありますし、思索への意欲が湧いてくることもあるでしょう。
どのように受け取るかは、本に拠るところが大きいのですが、読む人にも拠ります。読書も経験を深めれば深めるほど、著者の書かれているように感度が上がると思います。
読書はよく実際の体験と対比して、非体験的なこととして述べられることが多いのですが、熱心に取り組むと一つの体験として考えることができると思います。