2008年03月02日
『成功学キャラ教授』
清涼院 流水著 2006年11月1日発行 1575円(税込)
本書は、以前このブログで記事にした『成功本50冊「勝ち抜け」案内』で紹介されていた本のうち、唯一「存在すら知らなかった本」でした。smoothさんも本書については同じであったようですが、すでに詳しい内容の紹介があります。自分が本書を買ったのは、その記事を読んで内容についてのお墨付きを得てからであり、リスクを取らなかった分、紹介が遅くなっています。
本書と似たような作りの「成功エンターテイメント小説」に、以前紹介した『夢をかなえるゾウ』があります。そちらはすでに50万部程度のベストセラーになっており、テレビドラマ化も決まっています。両方とも読んでみて、本書も同じくらいよく書かれているという読後感を得たのですが、今のところ『夢をかなえるゾウ』ほどには売れていないようです。両者の商業的な違いはどこから生じたのでしょうか。
まず、述べられている成功法則についてですが、本書の法則が『夢をかなえるゾウ』と比べてさえないわけではありません。むしろ本書の方が成功法則としては、より本質を突いたものが選ばれていると思います。
小説としてのエンターテイメント性も、両書に大きな程度の違いはありません。読者参加型としては、本書の方が臨場感が得られるようなストーリー展開になっています。
最初に考えられる理由としては、本書については書店で目につきにくかったということがあると思います。実はそれが一番大きいかもしれません。本書は講談社BOXというシリーズの一冊として本になっており、シリーズ名の通り箱入りになっています。書店ではビジネス書のコーナーには置いていなかったと思います。少なくとも見かけた記憶はありません。成功本によく目を通す人の目につきにくい場所に置かれておらず、需要が豊富なところに供給されていなかったようです。
『夢をかなえるゾウ』の読者は6割が女性だそうです。女性には「知的な存在」より「かわいい存在」の方が受けるということはあると思います。『夢をかなえるゾウ』のガネーシャにはどこか憎めない愛嬌がありますし、動物というだけで親しみを持ちやすいと思います。
両方の著者とも成功本を数百冊程度読まれており、そのあたりに大きな違いはないと思うのですが、本書の著者は推理作家としてすでに成功されており、ストーリー展開の完成度が高く、本からスマートな印象を受けます。『夢をかなえるゾウ』はどことなく泥臭いエネルギーがあり、そのあたりがかえって成功したい読者と共鳴しやすいところがあるのかもしれません。
両方ともフィクションですが、『夢をかなえるゾウ』は現実にはまずあり得ない話です。ドラえもんやオバQが現実にはあり得ない話であるのと同じです。それに比べて、本書は絶対にあり得ない話ではありません。おそらく、お金に糸目をつけなければ同じ状況を作ることができます。
しかしながら、リアリティとしてはなぜか『夢をかなえるゾウ』の方があるように思います。ドラえもんは現実ではあり得ませんが、多くの子供たちは話にリアリティを感じており、だからこそこれだけ続いているのでしょう。実際にあるかどうかということと、内面で感じるリアリティには違いがあります。
本書は話が進んでいく過程で、かなりの幸運が関係してきます。本書の中で成功するのに必要なのは、かなりの部分が幸運であるという現実世界の事実と近い話の展開になっています。『夢をかなえるゾウ』はそのあたりが前面に出ておらず、夢が提供されています。
本書は現実、『夢をかなえるゾウ』は夢が表現されており、テーマが同じでありながら、そのあたりにも違いがあるのかもしれません。現実と夢であれば、夢の方が多くの人の共感が得られそうです。
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この記事へのコメント
ご紹介ありがとうございます。
私も水野俊哉さんがシツコク(笑)薦めてくれなかったら、この本買わなかったかもしれません。
本書が売れなかった理由については、実は内容以上に装丁が理由かな、とは思って、深くつっこんで考えていませんでした(勉強になりました)。
ただ、私が思ったのは「夢を〜」の方が、人間のプリミティブな感情(特に「笑い」「泣き」)を織り込んだのも成功の一因かなとか。
後、「死」・・・って釈迦死んでないけど(笑)。
逆に、「キャラ教授」はドキドキ感というか、「この後どうなるんだろ」みたいな形で、最後まで一気に読ませるパワーがあったかな、と思いました。
たしかに「夢を〜」の方が、直接的に感情にうったえかけるものがあります。やはり感情を揺さぶる方が売れやすいのでしょうね。感情マーケティングではないですが。
内容的にもスキが多くいろいろと突っ込みたくなるのですが、そのあたりもかえってよいのかもしれません。不完全で突っ込みやすい人の方がモテるのと似ていますね(笑)。
「キャラ教授」は読み物としては面白く、まさに一気に読ませる作品で、プロの構成力を感じました。それだけに惜しい作品です。