2008年03月14日
『行政不況』
中森 貴和著 2008年3月24日発行 680円(税込)
その昔『複合不況』という新書のタイトルが流行語になりましたが、本書も場合によっては流行語になりそうです。著者は帝国データバンクに勤めている方です。
ここ数年、消費者保護を目的とした、「改正貸金業法」「改正建築基準法」「改正独占禁止法」「金融商品取引法」などの法律の改正や施行が相次ぎました。本書のテーマは、これらの影響が日本経済に与えているマイナスの影響についてです。
これらの法律は消費者保護を目的としていますが、業界からすると実質的な規制強化になります。消費者金融業界では、上限利息が下げられたため、業者は大きなダメージを受け、信用収縮を引き起こしました。建築基準の厳格化は、建築業者の売上を大きく低下させています。
これらの法律が施行されれば、予測以上に影響が大きかったにしても、ある程度現在の状況になることは予想できていたはずです。
サブプライム問題の影響で世界の株価は下げていますが、日本の下落率はサブプライムの直接的な影響が少ない割に大きいのは、本書に書かれているようなことが原因になっています。
企業の倒産も増えていますが、肯定的に考えると、非効率的な経営をしてなんとか生きながらえてきた会社が無くなって、中・長期的には経済全体の効率が高まることも期待できるのかもしれません。
ひょっとすると、非効率的な企業を倒産させるために、このような状況をつくり出しているのではないかとも思ってしまいますが、残念ながら深く考えていない可能性もあります。そのあたりはいろいろな思惑があるので、はっきりしません。おそらくよく分かっていた人もいるでしょうし、全くわかっていなかった人もいるでしょう。
本書では業界の再編についても書かれており、業界再編リセッションという章で、流通、電機、建設、金融などの業界の再編について解説されています。これについても、一時的に景気後退の原因となっていますが、中・長期的には再編されることによってそれぞれの業界の効率が高まると楽観的に考えると、産みの苦しみなのかもしれません。
本書では、最後に「「失われた30年」の始まり」というタイトルで悲観的に締められています。最近は新聞のみならず、新書にまで悲観論が浸透してきました。悲観論が広まれば広まるほど、市場の底も近づいてきているのではないかと思います。
現在の状況は、明るい材料は何一つありませんが、明るい材料が見えるようだとすでに底ではありません。マーケットが反転するときは、何か象徴的なことがあるはずですが、まだそれが何かはわかりません。それがはっきりとわかるような形になっていると、底は過ぎていることでしょう。