2008年03月18日
『ルポ貧困大国アメリカ』
堤 未果著 2008年1月22日発行 735円(税込)
三省堂を散策していたら、週の売り上げ新書部門で一位になっていた本です。装丁が地味な本ということもあり、やや意外な感じがしたので、購入して読んでみました。
本書は、日米を行き来されているジャーナリストである著者が、アメリカの貧困の現状と問題点についてルポとしてまとめられたものです。本書のプロローグにおいて、サブプライムローンによって住宅を差し押さえられた話がつかみになっており、そのあたりもよく売れている理由の一つになっているのかもしれません。
アメリカが貧富の差の激しい格差社会であるということは、以前本ブログでご紹介した『超・格差社会アメリカの真実』に詳しく書かれていますが、その本ではどちらかというと富裕層に焦点が当てられていました。本書は貧困層がテーマになっています。
自由化やグローバリゼーションにより中流家庭が減少して、格差が拡大しているのは世界的な現象ですが、もともとアメリカはそれを是とする傾向が強いため、日本などと比べるとはるかに格差が大きくなっているようであり、本書を読むとそのことが具体的に分かります。
医療問題ついても書かれていますが、アメリカでは盲腸になりたくはないですね。手術の費用が100〜200万程度かかります。盲腸ですらこれだけかかるのですから、さらに大変な病気は推して知るべしです。医療制度を遍く行き渡るべきものであるとすると、実質的には崩壊していると言えるでしょう。
貧困層がお金のために戦地で働かざるを得ない状況についても書かれています。戦争の一部がすでに民営化されてビジネスとなっているようです。我が国でも将来的に同じようになる恐れがあるのではないかということについては、少し前の本ですが、森永卓郎さんが『平和に暮らす、戦争しない経済学』においてすでに書かれています。
本書のような本がよく売れているのは、日本でアメリカについての認識が変わりつつあるということを表しているのかもしれません。本書に書かれているような貧困についての諸問題は、以前からあった問題ですが、ある国についての認識が変わると、その国についての否定的な側面にスポットライトが当たりやすくなります。
そうなるとそのこと自体がさらに否定的な印象を形成します。このことは株についても当てはまり、価格のトレンドが形成される理由になっています。国についても見方のトレンドがあるのかもしれません。
また、人の印象についてもこのことは当てはまると思います。いったん印象が形成されると、その印象自体がその人についての捉え方に影響を与え、もとの印象が強化されます。いったん形成されたトレンドを転換させることは容易ではありません。第一印象が重要といわれるゆえんです。
人は対立矛盾するものを同時に心に抱くのが苦手です。現実の世界をありのままに認識すると、矛盾対立するものが共存することがほとんどですが、人には白黒どちらかを決めて楽になろうとする性質があります。その矛盾の葛藤に耐えられる強さがあれば、世の中をよりリアルに認識できることでしょう。