2008年03月19日
『中国株投資の王道』
バートン・マルキール他著 井出 正介訳
2008年3月13日発行 2100円(税込)
中国株投資についての本ですが、本書で一番注目すべき点は、現在もバージョンアップを重ねている株式投資についての古典的名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』の作者であるバートン・マルキール博士によって書かれていることです。
中国株投資については、今年の一番始め1月1日の本ブログの記事でジム・ロジャーズによる『A Bull in China』を紹介しました。訳者によるあとがきにも書かれていましたが、この2冊の本は投資業界に大きな影響を及ぼす人物によって書かれており、内容も補完的なので、合わせて読みたいところです。残念ながら、ジム・ロジャーズの本は本日の時点では、まだ日本語では読めません。
本書は投資家というより学者によって書かれているので、全体的にバランスの取れた記述になっています。ジム・ロジャーズの本は、個別銘柄の解説がほとんどといった内容でした。本書でも、一応いくつかの個別銘柄の解説はありますが、基本的にはそれらが推奨銘柄として取り扱われているわけではありません。
本書のスタンスは、中国の個別銘柄に投資するというより、インデックスファンドやETF、米国の中国関連銘柄への投資を推奨しています。興味深いのは、中国の発展で利益を受ける日本の中国関連銘柄への投資も勧められていることです。
マルキール博士らしく、中国の株式市場が効率的であるかどうかといった問題についても考察されています。結論としては、効率性はまだ高くはないが以前よりは高くなってきているということです。効率性の議論については、結論とともにその過程についても興味深く読めます。
以下のようなリスクについても詳しく考察されています。
- 人口高齢化によって成長は鈍化する
- 巨額の不良債権で経済が破綻する
- 台湾および日本との対立で大混乱
- 環境破壊が成長の足を引っぱる
- 貧富の差が拡大し、深刻な社会不安を生む
- 賃金上昇が成長にブレーキをかける
- 中国の発展はアンバランスで持続できない
- 汚職の蔓延が国を滅ぼしかねない
これらのリスクについて一つ一つ考察し、反論されています。これらの「リスク」にもかかわらず、中国株への投資を勧めているということは、それだけ成長性が高いと見なしているということでしょう。日本との対立で混乱するかもしれないということをリスクと考えているところが、日本人には新鮮で意外な感じがします。
全体的にやや楽観的な印象を受けますが、これは中国に対する日本とアメリカの距離感の違いによるのかもしれません。日本についての話も、中国の歴史的なトピックでいくつか出てくるのですが、歴史が専門ではない米国の知識人による日本と中国についての認識が垣間見られ、参考になる点があります。
投資についての内容はもちろん参考になるのですが、ジム・ロジャーズにしても、本書の著者にしても、投資業界に影響力のある方が、中国株投資を勧める本を書いていること自体に意味があります。
世界的に「中国は長期的に発展しそうである」という多くの人のコンセンサスが得られれば、中国の株式市場に資金は流れ込んでくることでしょう。著者が書かれているように、中国経済が長期的に発展するのであれば、あせって中国株を買う必要はなく、何らかの理由で大きく下落したときに買っても十分に間に合いそうです。