2008年03月24日
『賢い身体 バカな身体』
桜井 章一/甲野 善紀著 2008年2月17日発行 1470円(税込)
「伝説の雀鬼」桜井章一氏と古武術研究家甲野善紀氏の対談です。お二人ともその分野では昔から名を知られた方たちでしたが、ここ数年は一般にも知られる存在となっています。
本書では、身体論を軸にして、人生や時代について語り合われています。直接的にはビジネスや投資とは関係ないのですが、読み方によってはさまざまなヒントが得られます。
桜井氏は麻雀を通じて、甲野氏は武術を通じてものごとに対する認識を深めています。道は異なりますが、両者とも身体の感覚や直観を重視し、それらを通じて自然と一体化するという点では同じような境地に達しておられるようです。
世界的に有名な投機家であるジョージ・ソロスも、ポジションが間違っているときはみぞおちのあたりに違和感を感じるということを言っていたように思いますが、達人の域に達するとそのあたりにも敏感になるのでしょう。
ジョージ・ソロスと会った日本の有名な官僚の方が、ソロスと直接会ってもシャープさを感じなかったと評価されていましたが、その方は理知的な方なので、そのような視点でソロスを見ることができなかったのかもしれません。
両者とも統計的に物事を分析して解釈することについては否定的です。統計的な分析手法は、有用であるとは思いますが、名人の領域はそのような手法を超越したところにあります。統計的な分析は参考にするものであり、最終的によりどころにするものではありません。本書を読むと、そのことがよく分かります。
15年以上前になりますが、桜井章一氏とは麻雀を打たせていただいたことがあります。同じ卓に入ってこられても、しばらくは氏だと気付かなかったのですが、尋常でない雰囲気でわかりました。言葉で表現するのは難しいのですが、本人が麻雀の牌や卓と一体化して気配が消えているような感じがしました。
淡々とリズミカルに打たれているのですが、その打ち方がとても自然で、流れ続けているような、そして流れが止まることが想像すらできないような感じを抱かされました。一流の音楽の演奏を聴いていると、その演奏がいきなり中断することは想像すらできませんが、たとえて言えばそのような感じでしょうか。
トレードをするのは麻雀をするのと似ている点があるので、本書はトレーダーの方が読んでも得られるところが多いと思います。もちろん、人生やビジネスにおいても参考になる点が数多くあります。
本書で対談をされているお二人が日本社会に広く受けいられつつあるということは、日本もまだまだ捨てたものではないと思います。身体的な感覚をほとんど無くして一方の極に達した日本社会が、自らを癒すためお二人のような方を有名にしつつあるのかもしれません。そう考えると、日本にはまだ自然治癒力が残っており、予後について少しは楽観的になれるのかもしれません。