2008年04月04日
『もの言う株主―ヘッジファンドが会社にやってきた!』
ヴェルナー・G・ザイフェルト/ハンス=ヨハヒム・フォート著
北村 園子訳 2008年3月25日発行 1890円(税込)
著者の一人はドイツ取引所のCEOをされていた方です。CEOであった著者が中心となって、ドイツ取引所がロンドン証券取引所を吸収合併しようとする2005年の最中、ヘッジファンドのTCI(ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド)が突如「もの言う株主」として著者の前に登場しました。本書は両者の格闘の記録です。
TCIは我が国においても、電源開発会社であるJパワーに対する「もの言う株主」としてマスコミに登場する機会が増えています。本書は経営サイドの立場から書かれている本なので偏りはありますが、「もの言う株主」と経営陣との対立構造を考える上で参考になります。
ドイツの資本主義は、経営者の力が強く株主の力が弱かったという点で日本と似ています。そのような点においても、本書は今後グローバル化する日本の株主資本主義のあり方を考える上で役に立つと思います。
結局、著者を含めた経営陣は「もの言う株主」たちに負けてしまい、わずか数ヶ月で辞任に追い込まれるのですが、短い期間のことが臨場感をまじえて詳しく述べられているため、生々しい雰囲気が伝わってきます。
ドイツ取引所がロンドン証券取引所を吸収合併する背景には、ヨーロッパの証券市場の非効率性があるようです。ドイツ取引所は著者がCEOになられてから10年少しで、急成長しており、著者の書かれているところによると、それはドイツ取引所が効率的な経営がなされていたためだそうです。
吸収合併はヨーロッパの資本市場を効率化するという「公的な」目的もあったようです。TCIが名乗り出るまでは、吸収合併の話は順調に進んでいましたが、「もの言う株主」からのさまざまな圧力により中止になってしまいました。どのような圧力かということについては、本書に詳しく書かれています。
なぜTCIが合併を阻止するように動いたかについてですが、著者の分析によると、TCIはヨーロッパの資本市場を効率化したくないためではないかと想像されています。
ヘッジファンドは投資銀行とも関係が深く、それらの利益の源泉は市場の非効率性にあるので、合併によりヨーロッパの資本市場が効率化してしまうと、利益が得られにくくなってしまうということです。
証券取引所の再編・統合は今後グローバルに加速する流れだと思います。その流れを止めることは時代に逆行することになるので、ちょっと難しいのではないでしょうか。「もの言う株主」が考えているのは、再編・統合の過程で自分たちが最も利益を上げる方法だと思います。
将来的には、世界中の証券取引所が統一されてしまうかもしれません。そうなると、その市場を支配するものが圧倒的な優位性を手に入れるのは目に見えています。その優位性を手に入れる存在になれないにしても、その途中で利益を得る機会は存在することでしょう。ヘッジファンドが考えているのは、途中で得られる利益を最大化することではないでしょうか。
著者は、ドイツ取引所を効率よく経営されてきたそうです。それについては、著者が本書で書かれているように、本当のことでしょう。しかしながら、自社の株主構成のことなどはもとんど考えていなかったようであり、TCIの件についても寝耳に水だったようです。
ヘッジファンドからすると、もっとも「おいしい」のは、効率のよい企業、価値のある企業などが自社の株価や株主のことを全く考えていない企業の案件でしょう。最近は鳴りを潜めていますが、我が国でも数年前にはいろいろと話題になりました。
本書ではTCIと経営者のかみ合わなさばかりが目立ちます。著者からすると、TCIは自分たちの短期的な利益しか考えていないということになりますが、本来ファンドは利益を追求する存在なので仕方ないとも言えます。
制度を変更すると、その制度を極端に利用する動きが出てきます。国内だけであれば、それでも「常識」がある程度通用するのでしょうが、外国の株主には通用しません。
株主資本主義により、適度な緊張感を経営者が感じて経営が効率化するというメリットと、利益を優先する株主に会社が利用されるというデメリットの両方があります。メリットとデメリットのどちらが大きくなるかがポイントですが、価値を定量的に判断することは難しい問題です。









