2008年04月06日
『経済再生の条件』
塩谷 榔冀 2007年6月20日発行 2100円(税込)
著者は現在存在しない経済企画庁を中心とした省庁で官僚として働かれていた方です。1966年から30年以上にわたり官僚として仕事をされ、最後は事務次官までされています。
本書では、著者が仕事をされている期間の日本経済を振り返りながら、今後日本が経済再生をするための提言されています。本書のウリは政策の中枢に近い現場にいた官僚の方によって書かれていること、著者が働かれた期間にバブルとその崩壊があったためバブルの分析が中心になっていることです。
日本のバブルについての代表的な文献を参照しつつ、自身の官僚としての実体験も踏まえて書かれているので、本書は戦後日本経済とバブルの研究をするときの資料として、今後引用される文献になるのではないかと思います。
最近、日本の官僚制度の硬直性が、日本の発展の足かせになっていると批判されることが多くなっています。本書を読むと、政策立案や交渉の現場の雰囲気がよく分かるのですが、官僚の方も自分の立場でさまざまな分析を行い、問題解決の方向にいろいろな工夫や交渉をされていることが読み取れます。
細やかに配慮されているだけに、身動きが取りにくくなっている点もあり、そのあたりが外部からは硬直性があると見なされるのでしょう。限られた状況の中で、いかにその立場でできるだけの工夫を凝らすかが官僚の腕の見せ所ですが、周囲との関係を深く考えれば考えるほどドラスティックなことはやりにくくなっているようです。
この状況を変化させるためには、外部から内部とのしがらみがない存在により、いままでの関係をある程度無視して、変革を断行する場合も必要なのかもしれません。そのあたりを本書から読み取ることができます。
日本のバブルについての詳しい分析に興味がある方は、本書を直接読んでいただくのがよいと思いますが、ここでは著者が「日本経済のルネサンスのための基本的な条件」として挙げていることを書いておきます。
- イノベーション力の強化
- 日本経済社会の多元化
- 戦略政策部門の創設
- 情報伝達ルートの確保
- 分権的地域構造の形成
官僚の方もやるべきことは分かっていながらも、制度上すぐにはどうにもできないようです。批判されがちな日本の官僚制度ですが、個人の問題というよりも、制度のしがらみのため身動きがとれなくなっているということもあるのでしょう。
著者はあくまで調整を重視されていますが、調整を極めればうまくいくかどうかについては一つの大きな問題です。いかに調整するかというより、調整するべき状態を調整するのではなく変革するということが解決方法となることもありますが、調整することが存在理由である場からは、そのような解決方法が出てこないのは原理的に仕方ないと思います。