2008年05月06日
『「お金」崩壊』
青木 秀和著 2008年4月22日発行 756円(税込)
しばらく休日体制で恋愛本が続きましたが、経済本に戻ります。本書もまだ画像がないようですが、集英社新書の新刊です。著者は国会議員の政策ブレーンなどもされている方です。
本書の内容には3つの柱があります。日本の公的債務、お金そのものについての考察、環境問題とお金についてです。日本の財政、環境問題、お金そのものについて、それぞれ独立した本はよくありますが、本書の特徴はそれらを同時に有機的に結合して述べていることです。
金融システムと社会経済、社会経済と自然資本の関係はそれぞれよく述べられていますが、本書では、金融システム、社会経済、自然資本の3つを循環する大きな流れとしてとらえています。
本書で一番面白かったのは、お金の本質に対する考察です。本書によると、世界の金融資産総額は、1995年からの10年間で、6095兆円から1京3800兆円になっているそうですが、世界の総生産は3000兆円から4000兆円にしかなっていないそうです。
単純に計算すると、金融経済が実体経済よりも膨張しているということです。金融経済は実体経済に裏付けられる必要があることを考えると、やや金融経済が膨張しすぎているようにも思いますが、これをどう解釈するかは難しいところです。
一番の問題点としては、いままでの歴史上このようなことが起こったことはないので、歴史を参考にすることができないことです。金融経済が膨張しすぎているようにも思いますが、金融経済と実体経済の規模の最適な比率などはわかりません。
もしも現在の世界の金融資産が実体経済に比べて大きすぎるのであれば、お金の価値は減る、つまりインフレになるということになります。しかしながら、大きすぎるかどうかは比べるものがないためわからないわけです。
この問題は、株価が高すぎるかどうかという問題と似ています。一般的にPER100倍は明らかに高いですが、本当に成長性がある企業の場合は、割安である可能性もあります。最近の10年で金融経済が膨張したのは、おそらく世界経済の成長に対する期待の影響などもあるのかもしれません。
お金の価値は、もともとは人の心の思い込みによって成り立っています。たとえば、100日後に地球に巨大隕石が確実に衝突するということになれば、お金の価値は激変することでしょう。また一人一人で考えてみても、100日後に死期が迫っているとなると、その人のお金に対する価値は大きく変わることでしょう。
そのように考えると、お金の価値は現在の状態がずっと続くという思い込みによって成り立っているところがあります。本書では資源問題について書かれていますが、もしも資源が枯渇するとすると、現在の状態は変化してしまいます。
お金は人の心にあるので無限に膨張しえますが、資源は少なくとも現時点では有限です。本書は、両者の無限性と有限性の違いをはっきりさせるよう警鐘を鳴らすための本であると思います。