2008年07月06日
『日本経済を襲う二つの波』
リチャード・クー著 2008年6月30日発行 1785円(税込)
日本経済を襲う二つの波―サブプライム危機とグローバリゼーションの行方
「バランスシート不況」で有名なリチャード・クー氏の最新刊です。わずか2ヶ月間で書かれただけあって、最新の世界経済の情勢が反映されています。タイトルにある「二つの波」とは、サブタイトルにあるようにサブプライム危機とグローバリゼーションです。
これらの問題の本質と、「バランスシート不況」の観点から著者が提唱する解決案について書かれています。
「バランスシート不況」とは、バブル崩壊などによって企業の資産価値が下落した場合、企業がバランスシートの状態を回復させるために負債を圧縮し、個人も貯蓄に励むため、企業の設備投資や個人消費が落ち込むことにより不況になることです。
著者が提唱されているのは、企業も個人も設備投資や消費を行わずGDPが縮小傾向になるため、政府が公共投資を拡大することによりGDPの規模を維持し経済の流れをスムーズに保っておくことです。
1990年代に大規模に行われた日本政府による公共投資についても、タイミングなどの問題はありますが、積極的に評価されています。そのような意味では、イメージの良くない公共投資についての一般的な見方と異なるため、本書に書かれていることは新鮮な感じがします。
サブプライム問題についても、日本のバブル崩壊と重ね合わせて分析されています。解決策としては、現在行われている金融緩和だけでは不十分であり、アメリカ政府による積極的な財政政策が必要であると主張されています。また、銀行の毀損した自己資本に対しても、金融政策だけでなく公的資本注入の必要性を述べられています。
バブル崩壊に対して日本政府が後手に回って行ってきたことを、サブプライム問題の解決のために積極的に行うべきであるということです。全般的に政府の役割を重視されています。「バランスシート不況」は個々の企業や個人が合理的に振る舞った結果生じるわけであり、それが不況の原因になるのであれば、政府が介入するしかないという考えです。
本書の主張が正しいかどうかは、今後のサブプライム問題の収束がどのようになされるかを見守っていればわかると思います。アメリカ政府が大型の公共投資を行う財政政策を採用したり、銀行に公的資本を注入して問題が速やかに収束するようであれば、本書が正しかったということになります。
本書に書かれていることは、いままで市場の機能を重視する小さな政府の考え方に対するアンチテーゼとも言えます。リチャード・クー氏の主張は以前から本質的には同じなのですが、時代の流れからすると脚光を浴びるかもしれません。
GDPの規模を維持するために大規模な公共投資を行うのはよいと思うのですが、問題となるのはどれくらい意味のある公共投資を行えるかです。日本は公共投資を行ってバブル崩壊後の状況でもGDPの規模を拡大させてきましたが、膨大な借金の山が残ってしまいました。
本書に書かれていることがすべて正しいかどうかは判断しかねる点もあるのですが、著者の思考過程を追うことは、現在の世界経済の問題を考えるうえで多々参考になる点があると思います。