2008年07月12日
『閉塞経済―金融資本主義のゆくえ』
金子 勝著 2008年7月10日発行 714円(税込)
経済学者金子勝氏の新刊です。ここ数年の日本経済におけるキーワードだった、「規制緩和」「構造改革」「市場原理」などの有効性について見直しを促す内容です。
著者の主張は昔から変わっていないのですが、サブプライム問題によるアメリカ経済の停滞とともに、上記の諸概念に対する過剰な期待が減少しつつあるため、本書の内容は時代的に受けいられやすくなっているかもしれません。
本書を読むと、著者は「規制緩和」「構造改革」「市場原理」などについて反対しているように一見思えてしまいますが、実は著者が主張されているのは、規制を緩和するかどうかなどの二元的な対立を乗り越えることです。
本書の終わりの方で、多様性の重要性を述べられていますが、そのことからも含みのある考え方をされていることがわかります。
対立する二つの考え方があった場合、現実社会における解はそれらの中間にあることが多いのですが、それは社会全体にホメオスタシスがあるからです。
極端な考え方は、多くの場合現実的には正しくありません。ある時代に極端な考え方が受け入れられるのは、バランスが崩れていたからであり、バランスの崩れが修正されてさらに反対方向にバランスが崩れると、今度は正反対の考え方が正しいということになります。
恋愛における押しと引きと同じです。男女の関係も、適度な緊張を保ちながら深まるので、押すべきか引くべきかは状況によって異なります。
押しすぎたら引くべきですし、引きすぎたら押すべきです。ここで注意すべきなのは押すのと引くのとどちらが正しいかではなく、ポイントが適度な緊張であるということです。人はどちらかに決めて精神的に楽になりたくなりますが、必要なのは楽になろうとする気持ちのコントロールです。
規制緩和などについても、規制を緩和するかどうかを決めて楽になりたくなりますが、重要なのは緩和と引き締めの調整です。状況に応じて調整をすることは、人生のさまざまな場面に応用できます。
あることに対して、自分がどちらか極端な考えを主張したくなるのであれば、あえて反対の考え方をするよう意識的に努力する方がよいかもしれません。本書からは、バランスを取ることの重要性を読み取ることができます。