2008年07月16日
『なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか』
チャールズ・R・モリス著 山岡 洋一訳
2008年7月8日発行 1890円(税込)
巻末の著者紹介によると原著者は「弁護士・評論家、元銀行家」と多彩な顔をお持ちの方のようです。本書の原題は『Trillion Dollar Meltdown(1兆ドルの大暴落)』であり、昨年の終わり頃に本書に目を通した人は、サブプライム関連の損失が一兆ドルになるという著者の予想について「とんでもなく常識外れの金額」と心配されたそうです。
しかしながら、日本語版が出版された最近となっては、その数字は多くの人々のコンセンサスとなっています。1兆ドルというとだいたい100兆円です。
本書はサブプライム問題の解説書としてよくまとまっていると思います。それと同時に、ここ数十年のアメリカ市場の歴史の解説書としても読むことができます。
ここ数日、米政府系住宅金融機関(GSE)に公的資金を注入するニュースが話題になっています。やはり今回の問題の規模から考えても、最終的な落としどころは公的資金の注入になるようです。
サブプライム問題による損失と聞くと、お金が無くなったように思ってしまいますが、損があるということは得をしている人もいるわけです。損だけがあるわけではありません。
得をしたのは、サブプライム関係のビジネスをしていた人達です。住宅業界、金融業界の人々でしょう。住宅が売れることにより儲かる商売、たとえば家具業界なども潤ったはずです。厳密に考えるとアメリカの景気がよくなることにより利益を得た人は、数限りなく世界中に散らばっています。
それでもやはり一番儲かったのは、住宅業界、金融業界でしょう。もっと厳密に言うと、株主と業界で雇用されている人々です。
サブプライム問題を一気に解決しようと思えば、100兆円の公的資金を評価損があるところに注入すれば問題はなくなることでしょう。そうなるとアメリカ経済は2年くらい前の好調な状態に戻るかもしれません。
しかしながら、それはすぐにはできません。なぜなら公的資金を注入することは、100兆円の税金をサブプライム関連業界の人々に与えるだけのことになるからです。
公的資金を注入するための大義ができるためには、もう少し業界の方々につらい目にあってもらうか、景気が悪くなって多くの人々が困らないと許されないでしょう。
おそらく最も合理的なのは、すぐに公的資金を注入して、関連する業界から後で回収することであると思います。例えば、関連業界の税率を上げるなどの方法があるかもしれません。
本書では損失の規模が似ていることもあり、日本のバブル崩壊の処理についても反面教師として言及されています。今後アメリカがこの問題をどのように解決されるか興味が持たれるところです。
本書は行き過ぎた市場原理主義についても警鐘を鳴らす内容になっています。市場原理主義についてどのように評価するかは難しいところです。今回も行き過ぎて痛い思いはしましたが、行き過ぎたからこそ問題点も明らかになったわけです。
資産運用的には、サブプライム問題はそんなに問題ではありません。市場が下がるのであれば、空売りをしたりプットを買ったりなどいくらでも対応はできます。市場が大きく動くときは、富の分布が変化するだけであり、人々が考えるほど富の全体量が変化するわけではありません。