2008年07月27日
『日本版サブプライム危機』
石川 和男/生駒 雅/冨田 清行著
2008年7月22日発行 767円(税込)
日本版サブプライム危機 住宅ローン破綻から始まる「過重債務」 (ソフトバンク新書 82)
本書は3人の著者による共著です。著者のうちお二人は行政の実務に携わっておられた方であり、もうお一人は金融機関で仕事をされていた方です。時事的にサブプライムという言葉がホットなので、本書のタイトルには「サブプライム」と付いていますが、内容は日本経済における住宅金融に関連した諸問題です。日本の住宅金融の歴史についてもわかりやすくまとめられています。
本書の特徴は、行政と金融の実務に携わっておられた著者によることですが、それ以外にも前書きにあるように、住宅や住宅ローンを利用する生活者としての視点も含まれていることです。
米国のサブプライム問題は、本来返済能力のない人々に住宅ローンを組むことができるようにしたことに原因の一つがありますが、日本でも1990年代に景気対策の一環として住宅金融が緩和された時期があります。本書では、その頃の影響がそろそろ生じ始めているのではないかと書かれています。
ローンがこれほどあらゆる国でさまざまな時代に問題になるのは、ヒトの性質と深い関係があると思われます。今の楽しみを過大評価し、後の苦しみを過小評価する性質です。
人類が過ごしてきたほとんどの時期は、モノが絶対的に不足していました。モノを後にとっておくより、今すぐに利用するのは合理的だったはずです。とくに食べ物にその傾向が顕著で、今すぐ摂取すると自分の体の栄養になるますが、とっておいても後々食べられる保証はありませんでした。
借金は将来の楽しみを現在に引き寄せる制度なので、人間の本性に沿っていると言えるでしょう。自然の状態にしたがえば、人は借金をしやすい傾向にあります。利息は現在の楽しみの過大評価と後の苦しみの過小評価の差を金銭的価値に返還したものであると考えることができます。
長期に複利で驚くほどにお金を増やすことができるのは、理性で人間の本性に逆らうことができる少数者への報酬です。複利のリターンの源泉の一部は、我慢できない人から我慢できる人へのお金の流れです。
借金については、特別なトレーニングを受けない限り合理的な判断ができるようにはヒトは進化していません。このようなことについては、教育を受ける制度を作るか、それが難しいようであれば、行政が適切な規制をする必要があります。
おそらくほとんどの人にとっては、二次方程式の解の公式を覚えるよりも、金利の仕組みを教えられる方が、人生において役立つはずです。
また、借金については、麻薬、ギャンブルなどと同じように依存性があります。依存性があるものについては、行政が適切な規制をすることは必要なことです。
行政が積極的に関与すべきなのは、人が自然な状態では合理的な判断ができず放っておくと個人や全体の利益が損なわれてしまうところ、自由意志が働きにくくコントロールが難しいところなどもあるように思います。
住宅は額も大きくさまざまな分野に経済効果が波及するため、景気対策として利用されやすい側面があり、本書を読むとそのことがよくわかります。公共投資は国が借金をして景気を刺激することですが、住宅による景気刺激は個人に借金をさせて景気を刺激することです。
借金をして現在の状態を一時的によくし、ツケを将来に先送りするという意味では両者は同じです。景気がよくなっているときは、その景気の良さは経済の効率が高まって新たな価値が生じることによってもたらされたものか、それとも単に借金をして一時的に状態がよくなっているだけかの判断が大事です。
個人のレベルでも国のレベルでも、現在のよさを過大評価して後のつらさを過小評価するという傾向は変わらないようです。この人間の本性を理解し、それを組み入れたシステムを作り上げ、さらには継続すること自体もシステム化しない限り、同じ問題は未来永劫繰り返されることでしょう。