2008年08月04日

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『「自分だまし」の心理学』4

菊池 聡著  2008年8月5日発行  819円(税込)

「自分だまし」の心理学 (祥伝社新書121)

本書は認知心理学からみた「だまし」についてがテーマです。著者が大学で教えておられるため、本書はやや学術的な香りも感じられます。「だまし」は一般的には望ましくないことと考えられていますが、本書はそれを見直し、「だまし」に積極的な意味を見いだそうという主旨です。

本書はビジネス書ではないので、ビジネスや投資と直接の関係はないのですが、何かを売るときは「だまし」の要素が入らざるを得ませんし、投資の世界も他者からの「だまし」や自分の投資行為について「自分だまし」をしていることが多く、本書の内容を知っているとより深いレベルからビジネスや投資を考え直すことができると思います。



成功哲学本なのでもポジティブシンキングがよく語られますが、本書では認知心理学の立場からポジティブシンキングなどを再考しています。

本書によると、そもそも人は世界を「客観的に」認知していないようです。通常は無意識的に自分で都合よいように出来事を解釈しており、うつ状態の人の認知の方がより客観的であると書かれています。

人はある程度自分に都合よく出来事を解釈しないと、精神的なバランスを保ちにくいようです。運転する多くの男性は自分の腕は平均よりよいと思っています。医者も自分の処方は他の医者よりうまいと思っていることが多いようです。

日本人は他の国と比較して自信が少ないという興味深く納得のいく話も出てきます。国や文化によって異なることより、無意識的な認知の枠組みも後天的な環境からかなりの影響を受けることがわかります。

世界を客観的に認識することと、幸福になることは対立的な要素があるということが本書からわかりますが、これはちょっと困った問題です。なぜなら真と幸福が一致しないことになるからです。

世の中を正しく認識したければ幸せを捨てる必要があり、幸せになりたければ正しい認識を遠ざけることになりますが、この二つは何とか一致させたくなります。

もしも一致させるのであれば、客観性とは何かを考え直すのがよいでしょう。客観性の定義を考え直すこと以外にこの問題の解決はないように思います。

人の情報処理のほとんどは無意識的に処理されています。サブリミナルなマーケティングを実践する場合、良心的な人は悩むこともあると思うのですが、実は無意識の過程を関与させず、意識だけで情報を伝えることは不可能といってよいでしょう。

これはものを売る場合のみならず、日常生活における他者とのやりとりを考えるとわかります。五感を介してコミュニケーションが行われますが、ほとんどが無意識的です。服装は相手の無意識に影響を与えますが、どの服を着るかで良心が痛む人はいないでしょう。

無意識が関与せず完全に意識だけで納得しあって交流することは不可能です。とすると、問題はどの程度意識的に交流するかではなく、交流した結果どの程度の価値が創り出され、それが両者にどのような配分されるかになります。

意図的にサブリミナルマーケティングをしたとしても、100の付加価値があるものを買い手と売り手で半々に分けて両者が50ずつの価値が得られるのであれば、相手の無意識をコントロールして商談が成立したとしても、倫理的にも、そして実際にもとがめられないことでしょう。

そのように考えると、相手を尊重するということは、意識を通じてコミュニケーションをすることよりも、いかに価値を与えるかという問題になるのかもしれません。

男性が女性を口説く場合も、いかに相手の意識上の納得を得ながらそのプロセスを進行させるかより、相手にとって価値のあるものを相手の無意識を通じて与え続けた方がうまくいくことでしょう。そしてうまくいくのみならず、結果に対する女性の「納得」も得られやすいことでしょう。



investmentbooks at 22:59│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--その他 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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