2008年08月14日
『売春論』
酒井 あゆみ著 2006年6月30日発行 1365円(税込)
発売されて3年以上経つ本ですが、本屋で見つけたので読んでみました。著者の酒井あゆみさんは、風俗業界でさまざまな仕事を経験された後、出版業界でライターをされている方です。
著者の本では、文庫でも読める『セックスエリート―年収1億円、伝説の風俗嬢をさがして』がベストセラーなので知られているかもしれません。本書も御自身の体験をもとにして売春論が展開されています。
各章のタイトルは以下の通りです。
- 売春は儲かる職業か?
- 結婚は「永遠の売春契約」と思えば上手くいく?
- 男の感覚とカラダ、女の感覚とカラダ
- 一度は「値踏み」された方がよい現代女性
各章の終わりにはコラムがあり、それらも興味深いテーマです。
- 「風俗のハードル」と「夢」
- どういう女が「稼げる」のか?
- かしこく売春をする方法
- 風俗嬢が恐れるもの
本書に書かれていることは、男女関係の本質について深く考えたことがある方であれば、うなずけるところも多いと思います。
しかしながら、本書に書かれているようなことは、ふだんあまり意識しないようになっていますし、意識しなくても普通の男女関係を続けることはできます。
おそらく多くの女性にとって、本書に書かれていることはあまり考えたくないし、意識もしたくないことでしょう。第三者としてであれば話の内容だけは理解できなくもないと思いますが、男女関係の本質を自分が付き合っている男性と関係づけて理解するのはつらい作業ですし、普通に暮らしているのであれば、あえて理解する必要性もありません。
本書のような本を女性である著者が書けたのは、やはり風俗の現場で長年働かれていたからでしょう。
本書に書かれていますが、風俗業界で働くと今まで持っていた価値観が崩れてきます。そのあたりで自分の内部でバランスを取れなくなって、生活が乱れてしまう人が多いようです。価値観が崩壊しないようにするためには、男女関係の本質を考え直して、より深い「新たな」見方を再構成する必要があります。
この作業はつらいことなので、普通は自ら価値観を変化させるためにあえて何かを行うことはありません。認識を深めるために風俗の仕事をすることはないでしょう。深く考えず風俗業界に入って、気がついてみたら混乱状態になり、深く考えざるを得なくなったというのがほとんどです。
風俗に限らず、男女に関係したことで一般的な価値観から外れた場所に身を置いてしまうと、同様なことが起こります。このことは男女関係に限りません。
価値観を変化させないことは楽ですし、人間はなるべく価値観を変化させないように多くのことを意識しないようになっています。しかしながら、その「楽」は限定された条件での「楽」さです。
本を読む場合でも、つらい思いをして自分を変化させないといけないような記述は無意識的に無視している場合があります。本に限らず、日常生活一般においてもそうですが、本の場合は意識しなくても何のつらさも生じないので、より意識されにくい傾向にあります。
本を読んでもほとんどの場合大きく認識が変わることが少ないのは、わかりたいところだけわかっているからです。そのように考えると、意識的に読書をしない限り、自分を変化させて認識力を向上させるためには、読書だけでは不十分なのかもしれません。
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この記事へのコメント
どんなことでも、深く考えすぎることによって脳が混乱をきたしてしまうことは通常ありえることでしょうね。
私も、自分の生きる道、というより生きていくべき道を考えすぎて、blogに書いているような状況に陥ってしまいました。
中庸の徳とは昔の人はよく言ったものだとしみじみ思います。
捕らえ方は本来の意味とは違うのかも知れませんが、何でも突き詰めすぎることは、返って自己破壊に進んでしまう可能性を孕んでいるのかも知れません。
無意識な部分は無意識なままで流していくことも通常の精神状態で生きていくには必要かも知れないですね。
醜さを含めて相手を受けいられるようになるかどうかがポイントだと思います。
考えすぎるのが必要な時期もあると思います。そして、混乱が必要な時期もあるかもしれません。そのような時期を過ごすと、「中庸の徳」もわかりやすくなるかもしれません。
自己破壊は自己創造の契機になるので、必要なこともありますが、やはりバランスが重要だと思います。
お書きの通り、多くの人にとっては、日常生活が平穏に過ごせなくなるほど無意識を意識する必要性はないと思います。