2008年08月25日
『[新版]バフェットの投資原則』
ジャネット・ロウ著 平野 誠一訳
2008年8月21日発行 1680円(税込)
[新版]バフェットの投資原則―世界No.1投資家は何を考え、いかに行動してきたか
本書の原書は昨年10年ぶりに第二版が出ました。本書を読むのは少なくとも今回で3度目です。1回目は株式投資を始めるころに、初版の日本語訳で何回か繰り返して読み、2回目は和訳が待ちきれず昨年発売された原書を読み、そして3回目は今回の第二版の日本語訳となります。当たり前ですが、やはり母国語は読みやすいです。翻訳書のありがたさが身にしみて感じられます。
内容としては、バフェットとその周辺のエピソードと発言を集めたものです。初版から10年経って第二版が出ており、この10年バフェットの投資の方針もいくらか変更があり、寄付も世界的な話題になったため、本書の内容も数多くの新しいエピソードが加えられています。
いつもながらのウイットやユーモアに富んだやさしい言葉で、投資や人生に対する哲学が語られています。人生論、ビジネス論として読んでも面白いのですが、やはり株式投資をしている方が読むとより興味深く読めることでしょう。
10年の間にバフェットの考え方も変化した部分があります。例えば、以前は外国の株式には投資していませんでした。また、最近は「永久保有銘柄」の考え方も昔ほどには強調されていません。この10年の間に、中国の石油会社であるペトロチャイナに投資して売り抜けていることからもそのことがわかります。
以前の自分の考え方を、時代の変化に合わせて修正しているわけです。柔軟性を感じますが、これも優れた特徴の一つであり、おそらく最も優れて他と異なる特徴の一つです。
将来バフェットが歴史上の人物になったときには、昔に語った言葉を引用して「バフェットはこう言った」などという人が出てくるかもしれません。しかしながら、それは人物でなく人物のイメージが一人歩きしていることになります。
本人は柔軟性があるので、時代が変わればそれに応じて投資方針も変化させることでしょう。初版と第二版を読み比べてよかったのは、バフェットの柔軟性がよくわかったことです。
バフェットの語る言葉も、普遍的な部分と時代によって変化する部分があります。学ぶべきは普遍性がある部分です。昔と比べて修正されているのは、物事について固定的に語られている主張です。上に述べた「外国株には投資しない」というのは固定的な主張なので、時代の変化とともに修正されたようです。
歴史的な偉人・賢人・聖人などが語った言葉は数多く残っています。後世の人は、その残っている言葉からさまざまな解釈を引き出しますが、おそらくその言葉を語った本人が生きていれば、自分が以前語ったことにはこだわらず、その時代に応じて別のことを語るでしょう。
なぜならば、本当に偉大な人は状況に応じて柔軟に変化するからです。本人は柔軟なのですが、後世の人々の柔軟性のない心が言葉にこだわって解釈を曲げてしまいます。本当に偉大なのは、偉大な人が語った言葉ではなく、偉大な人の心の柔軟性、つまり心の自由さです。
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この記事へのコメント
いつも興味深く読まさせていただいております。バフェットの考え方が好きなので、私見を述べさせていただきます。
>>本当に偉大なのは、偉大な人が語った言葉ではなく、偉大な人の心の柔軟性、つまり心の自由さです。
哲学的な意味で、柔軟性がすばらしいかどうかの議論はともかくとして、バフェットに関して言えば柔軟性が彼の主たる長所だとはどうしても思えないです。これは単に僕がそう思っているだけかもしれないですが。
むしろ、原理原則を見極め、それを充実に守ったとか、思考において論理やクリティカルシンキングを重要視したとか、人間の陥りやすい欠点を見つめたとか、いろいろあると思うのですが、そういうところのほうがバフェットの特質をよく表しているような気がします。
柔軟性で連想するところは、グレアムの手法から、将来得られるキャッシュフローを重視するの投資に移行したこととか、または最近では海外株の投資ということですが、両方ともに、移行には気の遠くなるような長い時間(数十年スパン)を要しているはずです。
これは解釈によるのかもしれないですが、これを持ってして柔軟性と言ってしまうのは少し違和感があるのです。
バフェットは実際に接するとかなり頑固な方ではないかと想像します。お書きのことはバフェットの特質をよく表していると思います。
柔軟と表現すると、たしかに言葉としてやわらかすぎるニュアンスが出てしまうかもしれませんね。
グレアム流の安全性を重視するバリュー投資から成長性も重視する成長株投資への変わるのには、それなりに時間がかかっているようです。
海外株の投資については、アメリカ国内だけの投資を始めてから数十年経った後ですが、海外も投資対象として魅力的と見なしてからはあまり時間が経っていないかもしれません。
柔軟という言葉は過去の自分の方針にとらわれないという意味で使いましたが、柔軟という言葉にすぐ変わるという時間的なニュアンスがあるとすると、「頑固な」バフェットのイメージからはズレが感じられるかもしれません。
仰りたい趣旨はよく理解できました。
ちなみに、僕がバフェットが他の人間と際立って変わっていると感じているのは、「能力の輪」の概念です。
あれは、浮かれた人間の考え方、行動とは真逆にある概念で、大げさな言い方をすれば、凡人がたどり着けない境地という感じさえするのです。
「能力の輪」は自分の限界を知るということですね。ソクラテスの「無知の知」に通じるものがあると思います。お書きの通り、なかなか「凡人がたどり着けない境地」だと思います。