2008年09月20日
『日本経済を襲うエキゾチック金融危機』
草野 豊己著 2008年9月20日発行 1000円(税込)
日本経済を襲うエキゾチック金融危機 (Mainichi Business Books)
著者紹介によると、著者は「ヘッジファンドと最初に取引をした日本人」だそうであり、外国人投資家とも長年のビジネス経験をお持ちの方です。本書のテーマは大きく分けて二つあり、一つは現在も進行中であるサブプライム問題に端を発する世界的な金融危機の解説、もう一つはヘッジファンドについての解説です。
本書は『週刊エコノミスト』に2006年から2年間にわたる記事がベースになっているようです。本書に書かれていることはつい一ヶ月前の8月の状況まで踏まえられているのですが、それからも日単位で次々と新たな大きいニュースが飛び込んできており、現在も渦中の最中にあります。
各章のタイトルは以下の通りです。
- これから始まる米国初「スーパーバブル崩壊」
- 21世紀型金融を動かすヘッジファンド入門
- 「バブル転がし」は永遠に続くのか--世界経済のパラダイムシフト
- 「エキゾチック金融」に目覚めよ、日本!
「スーパーバブル」という言葉は、先日紹介した『ソロスは警告する』の中で「超バブル」と表現されている言葉です。本書ではソロスの主張も参考にされており、ソロスの本で解説されている内容について、ソロス独自の哲学の部分をなくして数値などについてより具体的に解説されています。ソロスの本と合わせて読むと、相乗的に理解が深まると思います。
本書でも繰り返し述べられていますが、今後一番問題になってきそうなのは想定元本62兆ドルのCDSです。運用資産が2兆ドル弱程度しかないヘッジファンドもCDSの売り手になっており、問題が拡大するとカバーしきれるはずもないようです。
今回の危機については、アメリカは今のところうまく対応していると思います。日本のバブル崩壊後の処理と比較して10倍くらいの速やかさですし、つぶすべきところはつぶし、救済すべきところは救済するとメリハリも効いています。アメリカが取っているリスクは本当に恐慌になるかもしれないということであり、そのリターンは処理を進めることです。
ただし本当にアメリカがしっかりしているのであれば、問題になる前に処理しているはずです。中程度の医者は病気になってから治し、名医は未病を治します。
どこをつぶすべきかどこを救済するべきかについては議論はありますが、ポイントはしっかり対応していると皆に分かりやすいようにすることです。すべてを破綻させると本当の恐慌になるでしょうし(ただしそれがよいという考えもあります)、すべてを救済するとモラルハザードになります。
今後どのような金融危機が展開するにせよ、心配なのは今回のことで金融に対する規制が過剰になって信用が収縮しすぎてしまい、経済のダイナミズムが失われてしまうことです。適度に信用を膨張させることは、経済の発展にとって必要です。証券化というスキームにしても適切に利用できれば、本当の意味でリスクを分散させることができますし、資産を効率的に活用できます。
今回のことをきっかけにして金融制度は改善されるとは思いますが、将来も形を変えて金融危機は生じることでしょう。将来から振り返った長い金融史においては、今回の一件も金融を発展させるきっかけになった一つのイベントに過ぎないということになるはずです。
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この記事へのコメント
適度な信用の膨張は経済の発展に必要、というのはクールな認識だなあ、と思いました。(適度っていうのが難しいんですけどね)
丁寧にお読みいただきありがとうございます。アメリカは敗戦処理を今のところよくやっていると思います。
信用の膨張を適度に押さえるのが難しいのはお書きの通りだと思います。信用の膨張を適度に押さえるのが難しいのは、人間の欲望や期待を適度に押さえることが難しいことに対応していると思います。