2008年09月21日

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『資本主義は嫌いですか』5

竹森 俊平著  2008年9月8日発行  1890円(税込)

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

著者の本はおよそ1年前に『1997年――世界を変えた金融危機』を本ブログで紹介しています。前著は「ナイトの不確実性」を軸に金融危機について解説されているタイムリーな良書でした。

本書も同様にタイムリーな内容で、「サブプライム問題危機をテーマにした「物語の三部作」という形」で以下のような三部構成となっています。



  1. ゴーン・ウィズ・ア・バブル
  2. 学会で起こった不思議な出来事
  3. 流動性---この深遠なるもの

分量的には第一部が最も多く全体の半分程度で本書のメインな部分になります。この部分でおそらく最も重要なのは「動学的効率性の条件」という概念です。「動学的効率性の条件」とは「その経済における投資収益率が成長率を上回る」という条件です。

本書での「直感的な」解説によると、「動学的効率性の条件」が満たされないような経済とは、投資がすでに過剰になっている経済です。ジャン・ティエールの分析によると、投資収益率が経済成長率以下になっているような過剰投資の状態では、富をさらに投資に向けるよりも、バブルに向けた方が経済にとってプラスになりうるということです。

このような投資過剰の経済の状態は、近年の新興国の著しい経済発展に当てはまるかもしれないと述べられており、バブルがグローバルに生じやすい説明になっています。

ちょっと話がずれるかもしれませんが、これは男女関係についても考えることができます。

一般的に恋愛の進行する初期の過程においては、男性の女性に対する思いの成長率の方が、女性の男性に対する思いよりの成長率よりも高くなります。わかりやすく言いかえると、男性の方が相手に対する思いが強くなりがちということです。その思いを女性に過剰に投資しすぎても女性が引いてしまいかえって恋愛が発展するプロセスのスムーズさが損なわれます。

このような場合はその女性以外に盛り上がるエネルギーをバブルとして「無駄に」別のところに投資する方が、その女性との関係もうまく行きやすいかもしれません。

男性の性的に過剰なエネルギーの別の投資対象は仕事でなどであればよいのですが、性的なエネルギーの投資先なので仕事はエネルギーの行き先にならないかもしれません。考えられる行き先は他の女性かもしれませんし、場合によってはその他の対象になる可能性もあります。昔の男性は、好きな女性については手も握らず風俗で発散させていたという話があります。

いずれにしろ男女の「動学的効率性の条件」が満たされるためには、恋愛初期の過剰な女性に対するエネルギーを別の形で「無駄に」発散する必要があります。相手方の女性が知るともちろん嫌がりますが、自分の気持ちが盛り上がっていないのに過剰に思いをぶつけられるのもスムーズな関係の進展にはマイナス要因となります。

女性の男性に対する思い以上に男性の女性に対する思いが、少なくとも女性の前では、小さく見える状態で恋愛のプロセスを進行させるのがスムーズです。

第二部は2005年のグリーンスパン前議長の花道を飾る意味合いが強いシンポジウムにおける、経済学者ラグー・ラジャンの報告をもとにして物語調に話が展開します。

微妙な人間関係や想像的な場の雰囲気の描写などが興味深いのですが、その報告において現在危機的な状況として問題になっていることの本質が先見的に語られているのには驚きを禁じ得ません。

しかしながら、あらかじめある程度予測できることと現実的な問題として事前に対応できるかどうかはまた別の問題です。ソロスの昔の表現を用いると「ギリシャ悲劇」です。わかっていてもなぜかそこに運命的に収斂していくことはあります。

第三部はレバレッジ、時価会計、流動性の問題などが扱われています。これらが複合的に今回の危機を拡大させているという主張です。

今回に限らず金融危機が流動性の欠如と関係することは、お金や金融の本質が流動性にあることを考えると当然といえば当然です。時価会計とレバレッジの危険性については、株の信用取引の担保が株式である場合を考えればマイナスのスパイラルを生ずることはわかりやすいと思います。

本書は単なる経済書ではなく、かなり意識的に読み物としてのバリューも追求されている本であると思います。第一部はとくに歯ごたえがありますが、丁寧に読むとかみ切れないほどではないと思います。

本書は今回の金融危機についてより深い視点から考えたい方にはおすすめできると思います。また、今回の一件のみならず金融危機そのものについても洞察を得ることができるでしょう。



investmentbooks at 23:53│Comments(2)TrackBack(2)clip!本--経済学 

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1. バブルには効用もある、のか  [ ちくさ通信 ]   2008年10月05日 13:49
『資本主義は嫌いですか』(竹森俊平・著)の第??部「ゴーン・ウィズ・ア・バブル」か
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この記事へのコメント

1. Posted by donald   2008年09月23日 17:11
これは買ったけどまだ読んでない本です。
「ちょっと話がずれるかもしれませんが・・・」とありますけど、時々思うのは、bestbookさんは男女関係のエキスパートではないかと感じるのですが、その辺どうでしょう!?
2. Posted by bestbook   2008年09月23日 23:42
donaldさん、コメントありがとうございます。

やはり本書のような本には着目されているんですね。自分も積ん読の本がありますが、読む時期を過ぎてしまうとつい新しい本から読んでしまうので、積ん読本はたまりがちです。

ビジネスや投資の本を読むときは男女のことについて、男女のことについての本を読むときはビジネスや投資についてどこかで意識しながら読んでいます。両者は非常に似ていますね。

男女関係の仕組みはだいたい理解していると思いますが、エキスパートではないと思います。

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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