2008年09月23日
『投資できる起業 できない起業』
八幡 惠介著 2008年9月25日発行 1000円(税込)
投資できる起業 できない起業 (Kobunsha Paperbacks 126)
著者は国際エンジェル連盟(IAIジャパン)の理事長をされている方です。シリコンバレーのことについてある程度の知識のある方であればよくご存知と思いますが、エンジェルとはベンチャー起業家を起業の初期の時点から経営面、資金面などさまざまな面からサポートする存在です。
著者はもともとは日本の大手電機メーカーの社員でしたが、シリコンバレーで働くことになったことをきっかけに、エンジェルのサポートを得て起業、事業が成功し巨額のキャピタルゲインを手に入れ、現在は自らがエンジェルとして活動されています。
本書に書かれていることは大きく二つに分けられます。一つは著者の成功体験をたどりながらシリコンバレー流の起業の方法についての解説、そしてもう一つは起業から上場に至るまでのポイントや落とし穴についての注意点です。章数は多いのですが、本書の内容がよく分かるので以下に書いておきます。
- なぜアメリカでは起業が盛んなのか?
- 日本初のエンジェルになるまで
- 日米での成功事例
- 大切な資本政策
- すべてはキャッシュフロー
- エンジェルの世界
- 成功するビジネスモデルの作り方
- なぜその企業は失敗したのか?〈安易な起業〉編
- なぜその起業は失敗したのか?〈マンパワー不足〉編
- 失敗の原因を検証する
- 創業リスクのあれこれ
- 起業家に求められるガバナンス
- 成功への最終ステップ
本書を読むと起業にも「定跡」があることがよく分かります。本書を読んでとくに印象に残るのが、マーケティングと資本政策の重要性です。起業家は人に好かれる必要があると書かれているのも印象的でした。
起業で成功した人にうまくいった理由を訊いても「自分は人に好かれやすいから」とは言いにくいでしょうし、もともとそうであることも多いと思われるのでそのことについて本人があまり意識していないこともあるかもしれません。
本書の著者はエンジェルとして数多くの起業家を見ておられるので、客観的な視点からの話を読むことができます。そのあたりの視点も本書の読みどころです。
あとがきでまとめられている「投資できる起業家」とは
- 経営チームを作れる人物であり、
- ビジネスアイディアだけでなく、市場、顧客、競合を理解し、そこで事業するにあたってのリスクを見分けることができ、
- 得意な専門性を発揮でき、
- 他人とコミュニケーションが取れ、
- 挑戦心があって、
- リーダーとしてチームをまとめて紛争があっても解決でき、
- 出資者に対して経営情報を開示できる。
だそうです。なかなかハードルが高そうですね。これらのハードルをクリアしたとしても、実際に成功するのはさらにそのうちの一握りの方のようです。蛇足ですが、「運がよさそう」というのを追加したくなります。
本書には著者が投資して失敗した実際の事例が20ほど述べられていますが、これらの事例から「投資できない起業家」のタイプについても以下のようにまとめられています。
- 思い込みが強く、他人の助言に耳を傾けない
- 事業のタネに執着しすぎて、市場と顧客が見えない
- 巨大な市場で既存のビジネスモデルをマネれば、少しでもシェアが取れると思っている
- ガバナンス、コンプライアンスなどは成功してから取り組めればよいと考え、当面は利益を出すことに専念する
- 特許などの知的財産権が唯一の差別化であると信じ、原資をそこに集中する
- 他人を信頼できず、すべて自分でこなす
- 準備は必要なく、事業を始めてから計画すればよいと考えている
著者のエンジェルとしての具体的な経験が反映されているように思います。
わが国ではエンジェルという存在はアメリカのようにはまだまだ多くありません。エンジェルが増えるには、エンジェルのサポートによって成功した起業家が上場などによりキャピタルゲインを得て、自らがエンジェルになる必要がありますが、この流れはまだまだ始まったばかりのようです。
わが国においてアメリカのようにこの流れができて拡大するかどうかは、税制や法律などの国の仕組みに加えて、起業で失敗すること、リスクを取って成功した人が莫大な資産を手に入れること、これら二つについての人々の見方がより寛容になるかどうかにもかかっていると思います。