2008年09月25日
『弾言 成功する人生とバランスシートの使い方』
小飼 弾/山路 達也著 2008年10月6日発行 1500円(税込)
著名ブロガーの小飼弾氏の語りを山路達也氏がまとめています。五つ星がついていますが、本書は著者が終わりに書かれているように、おそらく読み手によって評価が分かれる本です。
評価が分かれるのは本書のトポロジー的な内容が理由です。トポロジー的を他の形で表現すると、アメーバ的あるいは流体的とも言い換えられます。
表紙やオビに「成功する人生とバランスシートの使い方」「格差時代の成功術」などとありますが、一つの読み方としては個人が現代社会をいかに生き抜くかという方法論が書かれている本として読めますし、もう一つの読み方としてはいかにして世界全体をよくするかについての原理原則が書かれている本としても読むことができます。これら二つは表裏一体です。
本書に書かれていることが分かりにくいとすると、一般的な概念と異なる自由な発想をもとに書かれているためです。バランスシートを用いてヒト、モノ、カネの関係について述べられていますが、いわゆる一般的なバランスシートの概念とは異なります。
通常は「資産=負債+純資産」ですが、本書では「カネ=モノ+ヒト」ともなっています。トポロジー的であり、一般的な考え方ではないので、会計の知識がある人でもすぐには理解しにくいところです。
おそらく本書で著者が一番言いたいのは、やり方によっては世界全体の人が困窮することなく暮らしていく方法があるということです。例として、地球上で生産される穀物のエネルギー量の総和が全人類の必要エネルギー量を上回っていることが挙げられています。
地球上で飢えている人がいまだに多いのは、全体に配分するシステムが未整理だからということです。本書で著者が重要性を述べられているコネ、ネットワークなどは、配分するシステムを充実させるためです。
「カネ=モノ+ヒト」の等式についても、モノとヒトをいったんお金に変換することにより流動性を高めて配分されやすくするためです。モノに執着することを否定的に述べられているのも、モノへの執着は流動性を低めるためです。
そのように考えると、本書のテーマは世界の流動性を高めることであることが分かります。老子は「上善如水」と水を例に挙げて流動性の価値を讃えました。地球のどの地域においても酸素が足りなくて窒息死する人がいないのは、酸素の流動性が高いからです。
本書で述べられているベーシック・インカムが有用なのも、資産を流動化するためです。日本経済がストックの高さの割には活気に欠けるのも、さまざまな点における流動性の欠如によると考えられそうです。
多くの場合、流動性を欠如させるのは、人間の心に根深く存在する不足の可能性に対する不安や恐怖です。不安や恐怖があるので流動性が低下し、そのため不安や恐怖が強くなるという袋小路にはまっています。問題はいかにしてそこから抜け出すかですが、本書は合理的な思考によりそこから抜け出す一つの提案になっていると思います。
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この記事へのコメント
6月から読書感想を中心にブログを始めたflowrelaxと申します。
私も今日この本を読んだところです。
読み手によって評価が分かれると思ったのは同感です。
”世界の流動性を高める”ですね。
なるほど。私があと一歩理解しきれていなかった内容を言葉にしていただきありがとうございました。理解が深まりました。
また訪問させていただきます。
コメントいただきありがとうございます。
こちらもブログ拝見いたしました。
同業の方を書評ブログで目にするのは初めてです。
お互い頑張りましょう。
お書きの通り小飼弾さんの発想は「尖って」いますね。
鋭いのですが鋭すぎて一般的には理解されにくい部分が
あるかもしれません。
こちらも訪問させていただきますので、
今後ともよろしくお願いいたします。