2008年10月12日
『日本は財政危機ではない!』
高橋 洋一著 2008年10月10日発行 1785円(税込)
「埋蔵金」で有名な「上げ潮派」の高橋洋一氏の新刊です。本書の内容は以前に紹介した著者の本の『さらば財務省!』や『霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」』と本質的に書かれていることは同じなのですがより新しくなっています。
今までの本と同じように、やはり論点としては日本の財政と埋蔵金、金融政策、官僚制度についてです。本書の出だしの文は「いま永田町では過去の亡霊が甦ろうとしている。財政出動による景気対策という名の亡霊が---。」となっていますが、『共産党宣言』のパロディですね。
タイトルの「日本は財政危機ではない!」というのは、日本はたしかに膨大な借金があるのですが、資産も多くあるので両者の差は300兆円となり、GDP比からすると諸外国と比べて必ずしも多いわけではないという主張です。
資産は500兆円あるとのことなのです。実際にそれだけの資産性があるかどうかがちょっと疑問な点もありますが、100兆円程度のブレなので本質的にはあまり関係ないのかもしれません。
消費税については、税率を上げる前に埋蔵金の活用も含めて国にいろいろと改善する余地があることを提言されています。本書の全体を通じて日本政府のお金に関する非効率性とその改善ポイントが述べられています。
一番の問題とされているのは官僚制度についてです。これは根本的に難しい問題であり、基本的に自浄作用は望めません。一般的に組織は外部からの監視がないと自浄作用は働きにくいと思います。
会社でも自浄作用は働きにくいですが、経営がうまくいかないと潰れてしまうので、経営者と株主が異なる場合は経営について株主の監視が働きます。ただし、経営者がほとんどの株を持っていたりすると監視の機能は作用しにくくなります。
日本政府の実質的な経営者が官僚であるとすると、株主は国民ということになります。もしも経営に問題があるとすると、一番の原因は株主のチェックがうまくなされていないことにあると思います。
経営者は株主のために働きますが、自分のためにも働きます。株主がチェックしていないと自分の報酬を上げたり待遇をよくしたりしますが、人間の心理を考えるとそれは自然な行動です。
株主一人一人が経営をチェックするのは難しいので、実質的には監査役のような存在を配置するべきですが、いまのところそのような仕組みはありません。著者は本を書くことによって監査役としての役割を果たされているのでしょう。
本書は日本国という株式会社の監査報告書のようなものですが、株主である国民にその内容を判断することができないと、そこから先はどうしようもありません。結局のところ会社の状況は株主次第ということになります。