2008年10月13日

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『虚構のインフレ―騙されないための裏読み経済学2009』4

上野 泰也著  2008年10月23日発行  1680円(税込)

虚構のインフレ―騙されないための裏読み経済学2009

まだ書影がないようです。著者は著名なエコノミストで、ほんの半年ほど前に『デフレは終わらない―騙されないための裏読み経済学』を出されたばかりです。本書においても日本でデフレが継続することを主張されており、本書は前作の続きといえますが、本書から読み始めても著者の話はわかるようになっています。

最近になって、原油や食料品の高騰のためインフレについての報道がよく聞かれるようになり、デフレの時代は終わってインフレの時代になったかのように世間で言われていますが、著者はその考えをエコノミストとしての考察から否定されています。



たしかに原油や食料品の価格は世界的に高騰していますが、それら以外のものは今のところあまり高くなっていないようです。このことは日本に限らず日本以外の先進国に認められるそうです。よく報道されている「インフレ」は少なくとも現時点では、「根が生えた本物」ではなく、「虚構」に近いそうです。

さらにこれから世界的に景気が悪くなることが予想されるため、需要がタイトでなくなりさらに物価に下落圧力がかかるようです。

「本物のインフレ」が生じる条件として著者は以下の三つを挙げています。

  1. 人々の「期待インフレ率の上昇」
  2. 値上がりしたものを買うことができるような消費者側の「賃金・所得環境の改善」
  3. 消費者が直面している「企業側の価格支配力」がおしなべて強いこと

このうち2番目と3番目の「賃金・所得環境の改善」「企業側の価格支配力」の条件を満たすのがきついようです。たしかに賃金は上がりそうにないですし、商品を高くしたら売れそうにありません。

「インフレ」の原因になるのではないかと言われている、原油と穀物についてはバブル的な要素があると書かれており、早晩「バブル」は崩壊すると予測されています。

最近の「原油バブル」の崩壊については二つの考え方があると思います。一つは本当のバブルの崩壊。もう一つは長期上昇過程における一時的な調整です。いずれが正しいかは数年しないとわかりません。

最後の章で「「虚構のインフレ」を生き抜くヒント」がいくつか述べられています。

個人の仕事としては自分に付加価値がつくように努力することをすすめていますが、これは自然には賃金が増えないことの裏返しのアドバイスです。

株式についても悲観的です。これは本物のインフレにならないこと、原油や穀物のバブルが崩壊するにしても、やはり以前と比べると原料高のため企業収益が悪化することなどを予測されているためです。

不動産についても下落傾向にあると予想されています。利上げもしばらくはなさそうとのことです。

全体的に悲観的な内容であり、著者自身もそのことは認識されています。楽観的なこととしては、日本には技術力があるため、資源不足になりがちな世界において活躍する場が増えそうなこと、世界は現在苦しい状況でありながらも世界をよくするための創意工夫が世界中で日々なされていることを言われています。

これから世界経済が長期的に発展するかどうかについては、自分も楽観的です。なぜならば世界の流動性が高まっているからです。価値のあるものが創られると、すぐに世界中に広まるようになっています。情報についても同じです。お金も価値を生み出しそうなところへはすぐに集まります。これからその流れはますますスムーズになると思います。

今回の金融危機にしても世界中が協調して解決しようとしています。今回の一件が一段落ついたら、以前よりも世界の一体感が強くなっているのではないかと思います。これからも課題は山積みでしょうが、世界中の人々が知恵を出し合って諸問題を解決し、世界全体が発展する時代に近づきつつあるように思います。



investmentbooks at 22:53│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--日本経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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