2008年10月17日
『強欲資本主義 ウォール街の自爆』
神谷 秀樹著 2008年10月20日発行 746円(税込)
著者は30年以上前に邦銀に就職され、その後ゴールドマン・サックスに転職。その後「小さな」投資銀行を創業された方です。Nikkei Business Onlineでも「神谷秀樹の「日米企業往来」」という記事を連載されています。
本書は「強欲資本主義」という言葉からもわかるように、アメリカの投資銀行、ウォール街、金融資本主義の否定的な側面について、今後の世界経済の展望やこれからのあり方についても触れながら、著者の長年の業界人としての経験を踏まえて書かれています。
現在はアメリカの投資銀行を中心としたウォール街の仕組みによって進行しつつある金融危機のまっただ中にあるので、本書の内容は時流に即していると思います。
過去の歴史においてバブルがはじけた後は、そのバブルを引き起こした原因になったと思われる組織や人、あるいはシステムなどがスケープゴートになりますが、おそらく今回の一件についても同じようなことが生じるでしょう。
本書ではいくつかの点からウォール街のマネーを追求する強欲さについて、実例を挙げながら指弾されています。ウォール街における著者の経験は豊富なので、話にリアリティがあります。
資本主義は人間の欲望をその発展の原動力としているため、限りなく自由度を高めるとウォール街にあるような構造が生じるのは必然的といえるかもしれません。
本書では人間の欲望の負の側面に焦点が当てられていますが、欲望によってアメリカが現在のように世界の覇権国にまでなったということも事実としてあります。
ある程度の欲望を肯定するのは、個人の成長や国家の発展において必要です。欲望を抑圧したり否定したりするのは、個人のレベルにおいても国家のレベルにおいても、成長を阻害する要因になります。欲望は適切にコントロールしてうまく昇華する必要があります。人はそのために生きているといっても過言ではありません。
ウォール街が本書にあるように、無制限ともいえるほどの欲望を肥大させたのは、お金を直接扱っているためであると思われます。モノと対応している人間の欲望は、本来はそんなには肥大しません。なぜなら、一人の人が欲望を満たすために必要な欲望の対象となるモノの量には限界があるからです。
食事はいくらおなか一杯食べても知れていますし、男性が同時にちゃんとつきあえる女性の数はいくら頑張ってもせいぜい数人です。人の欲望が実在のものと直接対応している場合には、人間の欲望は限りがあります。
しかしながらお金というものを介すると、人間の欲望には限りがなくなります。ウォール街で欲望が限りなく肥大しやすいのは、お金そのものを取り扱っているからです。
お金というものが生じたのはヒトの歴史においてかなり最近のことであると思われます。おそらく生物としてのヒトのほとんどの時代にはお金というものはなかったことでしょう。そのように考えると、ヒトがお金とうまく付き合うような本能的な仕組みはないはずです。
普通の生活をするのならば、金融資産が100億円あるのと200億円あるのとでは全くと言ってよいほど生活上の違いはないはずですが、100億円持っていると200億円に増やしたくなってしまうようです。
もともとヒトにお金とうまく付き合うような仕組みがないのであれば、お金について限りなく自由度を高めることは望ましくないのかも知れません。資本主義を発展させた新しい仕組みを作るのであれば、そのあたりも考慮する必要がありそうです。