2008年11月04日
『さらば、強欲資本主義』
神谷 秀樹著 2008年6月30日発行 1890円(税込)
著者の本『強欲資本主義 ウォール街の自爆』はつい2週間と少し前に紹介したばかりです。『強欲資本主義 ウォール街の自爆』はよく売れているようで、先週の八重洲ブックセンター本店1階のランキングで1位でした。
今回紹介する本の方が数ヶ月前に出ていますが、著者の書かれていることに惹かれるものがあり、本書も購入して読んでみました。前回紹介した本と比べると、おそらく本書の方が著者が言いたいことの本質がよく表現されています。
サブタイトルは「会社も人もすべからく倫理的たるべし」ですが、まさに本書の内容はその通りです。
強欲資本主義という言葉は、拝金主義的なウォール街の利益市場主義を言い換えた言葉ですが、著者が主張されているのは、倫理に基づいたビジネスです。著者も昔はディールの大きさを追求された時代もあったようですが、夢中で忙しく働きながらもどこかおかしいと思われていたようです。
本書には著者のキリスト教とのかかわりや、病気による回心ともいうべき体験が書かれています。おそらくもともと宗教的・倫理的な性向がをお持ちだったところに、さまざまな体験を経られて現在の境地に至られたのでしょう。
本書に書かれていることは、数年前に大ベストセラーとなった『国家の品格』の金融版のような印象を受けました。失われつつある日本人の美意識や倫理観についても言及されています。
著者の考えの根底には、人間の幸福は強欲であること、本書の内容を踏まえて言い換えると、お金を追求することからは得られないということがあります。自然や人とのふれあいから、本当の人間の幸福感が生じると書かれています。
強欲であることは最終的には超えられるべきものであるとは思いますが、欲を追求した経験があるからこそ、欲を追求することの虚しさを実感できるということがあります。
そのように考えると、欲とそれを超越することは表裏一体ということになります。欲は単に否定されるべきものではなく、人によってはとことん経験されるべきものです。そうしないと超越できないこともあります。
時間の次元を無視すると、欲と悟りは一体と言えます。
自分の欲をある程度自覚している方が本書のような倫理的な本を読むと、その欲を抑圧してしまう場合があります。しかしながら、抑圧された欲はなくなるわけではありません。欲と悟りが一体であるとすると、欲を抑圧することは悟りを抑圧する可能性もあります。
本書を読んですぐに方針を転換できる方は、欲がある程度解放されて無くなりかけの人であると思います。大きな欲がある方は、本書に書かれていることはピンとこないか、あるいは「理解」して欲を抑圧してしまうかです。
本書はどのような時期に手に取るかによって、その人に与える影響が大きく異なる本であると思います。本書によって大きな影響を受ける人は、もともとがかなり倫理的な方であることでしょう。