2008年11月13日

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『間違いだらけの経済政策』4

榊原 英資著  2008年11月10日発行  893円(税込)

間違いだらけの経済政策 (日経プレミアシリーズ 25)
間違いだらけの経済政策 (日経プレミアシリーズ 25)

元大蔵相財務官であった榊原英資氏の新刊です。著者の本は読みやすいものが多いのですが、新書として書かれているためか、本書はとくに読みやすく感じました。

昨日『物価迷走 ――インフレーションとは何か』をご紹介しましたが、本日本書を読んだ後、この2冊はあわせて読むと相互に内容を補完すると思いました。本書によって、昨日はっきりしなかったところが理解しやすくなった点があります。



内容的には昨日の本の方が難しいと思います。本書には学際的な記述はあるのですが、あまり学術的・理論的な解説がないこともあるかもしれません。

昨日の本のテーマはインフレでしたが、本書は過去長期にわたった日本のデフレについてかなりの力点をおいて解説されています。

一般的にデフレは悪者として語られることが多かったのですが、著者の考えによると日本のデフレは構造的なものであったため、小泉・竹中路線でデフレ脱却のための財政・金融政策を取ったことについては評価されていないようです。

日本のデフレとなったのは、中国との取引を中心とした東アジアの経済統合による構造的なものであったとのことです。構造的であるため、それを金融や財政で無理にインフレにしようとしない方がよかったようです。

また、そのため政策的に円安バブルが生じてしまい、結局そのバブルは崩壊するので、円安に誘導したのはかえってよくなかったと述べられています。著者の主張は「強い円」です。

実現されませんでしたが、著者は官僚時代にアジアの共通通貨を提唱されていました。本書に書かれていることも、日本はアメリカに偏りすぎない方がよいという主張が方々に見られます。アメリカ寄りであった小泉・竹中路線について著者が否定的なのもうなずけるところです。

著者の主張は、アメリカが原因となった世界的な金融危機のただ中にある現在においては、以前よりも説得力を増しているのかもしれません。

これから中国が順調に発展するかどうかについては、まだ不確定な要素がありますが、今後日本が発展するためには、世界で最も成長の規模が大きな国と親密な関係を築くのは理にかなっている点もあります。もうすでに経済的には中国とかなり関係が深くなっています。

過去数十年はアメリカが中心となって世界経済を牽引してきたので、アメリカと親密であった日本にとっては大きなメリットがありました。しかしながら、今後もその戦略が日本にとってよいのかどうかは、わからないところです。

ここ数十年におけるアメリカとの関係のように中国と仲良くするのは、日本国内においてもさまざまな心理的な抵抗があることでしょう。しかしながら、長い歴史を見ると日本は距離が近いこともあり、中国との関係が深い期間がほとんどでした。

太平洋はありますが、今後は世界の二大大国となるであろうアメリカと中国の間にはさまれて生きることになります。現在のアメリカが歴史的に浅いことや、中国がしばらく冬眠中であったことなどの理由により、いままではいずれか一方と付き合っていればよいだけでしたが、今後は両方と付き合っていかないといけません。

客観的に眺めると、日本はアメリカとの距離感が近すぎるので、おそらく今後はバランスを取るという意味においても、中国にシフトせざるを得ないのではないでしょうか。台湾ですら中国との距離感を縮め始めています。

今回の金融危機がなく、アメリカが強大なパワーを保持していれば、日本は中国とどのように付き合うか今よりも難しかったことでしょう。アメリカの戦略としては、台湾と日本は対中国におけるアメリカの前線基地だったはずです。大国と大国候補は対立しやすいので、政治的にも地理的にも両国にはさまれている日本は政治的な立ち位置の難しさが増す方向にあったことでしょう。

著者は官僚をされていたときに、アメリカとの距離を取ろうとされていたようですが、アメリカの力が強大すぎるためかうまくいかなかったようです。その時と比べると、現在は日本にとって国際政治的にバランスをとるよい機会なのかもしれません。著者が最近数多くの本を書かれている理由もわかるような気がします。



investmentbooks at 22:50│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--日本経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
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