2008年11月21日
『情報革命バブルの崩壊』
山本 一郎著 2008年11月20日発行 756円(税込)
著者は「斬込隊長」として有名なアルファブロガーです。また投資家でもあります。ネット業界については黎明期から関わりながらウォッチされてきましたが、本書ではネット業界の現状と今後についての独自の見解を述べられています。
本書のタイトルの「情報革命バブル」という言葉から想像できるように、著者は情報通信・ネット業界自体がバブルであったとされています。以下のような章に分かれています。
- 本当に、新聞はネットに読者を奪われたのか?
- ネット空間はいつから貧民の楽園に成り下がってしまったのか?
- 情報革命バブルとマネーゲームの甘い関係
- ソフトバンクモバイル(SBM)で考える時価総額経営の終焉
- 「ネットの中立性」とネット「無料文化」の見直し
株式市場において、インターネットバブルは2000年に崩壊していますが、著者の考えによると、ネットはまだまだ過大評価されているということになります。ネットによって新たな世界が創られるという期待がありますが、ネット空間はリアル世界の延長にあるに過ぎないとのことです。
ソフトバンクの経営について一章割かれて述べられています。ソフトバンクは情報通信についての期待によって成長してきましたが、その経営は限界に近づいているということです。これからは、著者の表現によると「世界経済冬の時代」になるので、カネ余りをバネに成長してきたソフトバンクは行き詰まると予想されています。
著者は3年前に同じ文春新書から『”俺様国家”中国の大経済』という中国経済についての悲観的な見方の本を書かれています。本書ではネットや情報通信の将来について悲観的です。
中国とネット空間の共通点としては、皆の期待が大きいこと、混沌としていることなどがあります。どこか綱渡りしているようなあやうさあります。おそらく著者はそのようなものについては悲観的になられるのかもしれません。
情報革命が著者の言われている通りのバブルであるかどうかは、時間が経ってみないと何とも言えませんが、中国と同じように潜在的なパワーがあることはたしかだと思います。
問題は、混沌さから価値を将来的に生じるかどうかです。価値を生じなければバブルですし、多くの価値が生じるようになればバブルではありません。時間が経たないと著者の諸予想が当たるかどうかはわかりません。
テレビやラジオで流される情報は、テレビやラジオなしでも同じ情報を伝えることはできますが、やはりテレビやラジオは今から振り返ると革命的な技術革新でした。ただし、技術革新のインフラを整備した初期の企業がその果実を享受したかどうかはまた別の話です。
本書の面白さは著者の予測が当たるかどうかではなく、部分部分にある著者の見方・考え方にあります。そのような意味においては、本書は著者の予想が当たらなかったとしても、興味深く読めると思います。