2008年11月23日
『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』
ダン・アリエリー著 熊谷 淳子訳
2008年11月25日発行 1890円(税込)
予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
著者は行動経済学の研究者の方です。本書では、自らの多彩な研究に基づいて、ヒトの判断や意志決定における不合理性について述べられています。
本書の内容は学術的な論文がもとになっており、具体的に実験の手法などについても解説されていますが、著者が平易に書くように努められたこと、そしてわかりやすい翻訳により、すぐれた読み物にもなっています。
行動経済学はヒトの不合理性を研究する学問と紹介されることが多いのですが、ヒトの行動が不合理になっているのは、社会が高度になっているからです。行動経済学のテーマになっている「不合理性」は、原始社会ではそれなりに合理的であったことでしょう。
本書にはお金や価格についても、ヒトが非合理的であることについて述べられていますが、おそらく大昔はお金も価格も存在しませんでした。ヒトにはお金や価格について意識しないと、合理的に判断できないことは不思議ではありません。
行動経済学の本を読んで感じるのは、ヒトの自由意志のあやうさです。自由意志はむしろ「不自由意志」と呼んだ方がよいのではないかとすら考えてしまいます。
本書で解説されている事柄は意外なものもあるのですが、最近のビジネス書を読んでいる方は、本書に近い話はいくつか読んだことがあると思います。マーケティングの本などは、行動経済学的な話が多く、読みどころの一つになっています。
また本を読まなくとも、ビジネスの現場に長年いれば、購買行動における買い手の非合理性は体験的に理解されている方も多いことでしょう。
営業、マーケティング、自己啓発、相場などいずれかの分野に優れている方は、自らの非合理性を克服することによって、あるいは他者の非合理性を利用することによって高いパフォーマンスを達成していると思われます。
今後、行動経済学は発展して人間のあり方に大きな影響を与えるようになるかもしれません。現在はヒトがどのような非合理性を有しているかを明らかにする途上ですが、ある程度研究が進歩すると、その次にいかにしてその非合理性を「矯正」するかという議論になるでしょう。
その場合、人間の自由意志とは何かということが大きなテーマになるはずです。現在は非合理性も人のアイデンティティの一部になっていますが、果たしてそれを「矯正」することについて、どの程度まで介入するかは大きな問題となることでしょう。
たとえば、恋愛においては非合理性はつきものですが、果たしてその非合理性をなくしてしまってよいかどうかは一つのテーマです。非合理的であることが、恋愛の本質の一部なので、合理性をなくそうとすると恋愛そのものを否定することにもなりかねません。
将来的には株式市場についても、合理的な判断ができる一握りの人々が非合理性に踊らされる多くの人々から富を奪う場であったという解釈も出てくるかもしれません。
マーケティングについても、非合理性に無意識的に訴えかけることにより価値判断に影響を与えて、本来与える価値よりも多くの対価を奪う方法であったとされるかもしれません。
本書にはある程度非合理性に対応する方法についても書かれていますが、人の認知において意識に対する無意識領域の割合の大きさを考えると、1人の大人が10人の子供をコントロールしないといけないようなつらさを感じます。
しかしながら、現在のところは意識することから始めるしかありません。十分には意識することが難しいにしても、意識するとしないとでは大違いなので、それだけでも本書を読む意義はあると言えるでしょう。
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この記事へのコメント
小飼弾さんのブログで紹介されたので、アマゾンで在庫切れになっているのかもしれません。
最近は行動経済学の良書が次々と出始めています。面白い分野なので読むのが楽しみですね。
7月に「やっぱり仕組み〜」にコメントを付けさせていただきました。
この本はしばらく前に読みました。大変面白く、ためになりました。
私は、20年以上前の学生の頃に経済学とマーケティングを学びました。
しかし、行動経済学という研究分野を知りませんでした。
「実験と検証」という考えがある経済学の分野があるんですね。
もう少し勉強したくなりました。
お書きの通り、本書は面白くためになる本でした。行動経済学は比較的最近の分野なので、20年以上前には学校で教えられていなかったのですね。
行動経済学は小規模に「実験と検証」ができるので、仮説の結論がでやすく発展が早いかもしれません。