2008年11月25日
『ならず者の経済学 世界を大恐慌にひきずり込んだのは誰か』
ロレッタ・ナポレオーニ著 田村 源二訳
2008年11月30日発行 1890円(税込)
著者はエコノミストでテロ資金の専門家だそうです。本書にはテロについての経済的な見方についても書かれていますが、世界経済のダークな部分について幅広く話が解説されています。
タイトルに経済「学」とありますが、「学」というよりも、経済的な現象を事例的に説明している内容です。また、「大恐慌」とありますが、今回の金融危機が直接的なテーマではなく、本書のテーマはグローバリゼーションの方が近いと思います。
共産主義体制が何とか生きながらえていた時は、生産性は低かったものの、共産主義圏の人々には労働と低いながらもその対価が保証されていました。しかしながら、共産主義の崩壊により、莫大な数の職のない労働者が世界中でいっせいに出現しました。
共産主義国家であった国々は市場経済が導入されましたが、すぐにはうまく機能するはずもありません。職のない莫大な数の人々も何とか食べていかなければなりません。そのため、世界中にダークな経済勢力や経済事象が生じるわけです。
本書では、売春、奴隷、海賊、偽造などさまざまな世界のあちこちに存在するダークな部分について具体的に解説されています。たとえば、売春については、スラブ人女性が大量に他国に流入して売春をせざるを得ない状況が解説されています。共産主義が崩壊して職がなくなったため、体を売らないと生活できないようです。
日本に暮らしていると、本書に書かれているような世界中に存在するダークな部分は目にする機会が少ないのですが、実際は日本も大いに関係しています。日本に輸入される物は、もともとはそのようなルートをどこかで介してから入ってくる物も多いからです。
なぜ日本に入ってくるかというと、日本では需要があり、それを買うお金もあります。買う人がいれば、生活のためにそれを供給する人も自然に出現します。なぜなら、そうしないと生きていけないからです。
日本人はお金を払っているので、ダークな部分は目にしなくてよいわけです。高いお金を払うのは、ダークな部分を目にしないでもよいこともあるのでしょう。お金持ちが現場の汚さを目にする必要がないのと同じことです。
共産主義によって地球規模の大きなカオスが出現しました。世界の混沌度は増大しているわけです。混沌度が増しているときには、「ならず者の経済」があちこちで出現します。
その結果どうなるでしょうか?グローバリゼーションにより、世界中で労働者の裁定取引が起こります。これは、混沌が解消するまで続くはずです。今まで富んでいた国の労働者は賃金が下がり、現在カオス状態にあってなんとか生活している労働者の賃金は上昇していきます。
富んでいることと社会治安に相関があるとすると、カオス状態にある国は今後富むことにより混乱状態が解消して治安が改善され、富んでいる国は今後貧しくなって治安が悪化するかもしれません。
ここで心配になるのはアメリカです。上記に述べたことと、今回の金融危機の影響で、今後治安が急激に悪くなるかもしれません。場所にもよりますが、もともとアメリカはあまり治安のよい国ではありません。
治安と経済状況に正の相関があるとするならば、高賃金の労働者と低賃金の労働者の賃金の裁定と同時に、富める国と貧しい国の「治安の裁定」といったものも生じるかもしれません。
また、いままではアメリカが不完全ながら世界の警察のような役割を果たしてきましたが、これからは世界の警察に相当するような傑出して強力な存在がなくなります。そのような点からも、世界は混沌とする方向に向かうかもしれません。
混沌としている時代はピンチでもあり、チャンスでもあります。日本で最大のチャンスは、おそらく第二次世界大戦後の焼け野原になった混乱期だったことでしょう。
本書を読むと、日本に生活していると実感しにくい世界の混乱状況が具体的に分かります。日本人もそのことを認識した上で、国家戦略を練る必要がありそうです。