2008年11月26日
『増税が日本を破壊する』
菊池 英博著 2005年12月1日発行 1680円(税込)
本屋で平積みになっていたので新刊かと勘違いしてしまいました。読んでいる途中にデータが古いということから新しい本でないことに気付きましたが、トピックとしては消費税の増税論議が再びさかんになりつつある現在にも通じるものがあるので、買って読んでみました。
本書は、主として増税と緊縮財政に対する批判の書となっています。当時は小泉政権のまっただ中でしたが、公共事業費を削ったことや不良債権を厳しく処理したことなどについても否定的に議論されています。
本書ではまず日本が財政危機でないことが解説されています。よくいわれる話ですが、日本は債務も多い変わりに国の金融資産も多くGDPと純債務の比率から考えると、必ずしも諸外国と比較して財政状況が悪いわけではないようです。
にもかかわらず、小泉政権は公共事業を削減しプライマリーバランスを重視する緊縮財政の方針を貫いたため、デフレが生じたと解説されています。
著者の主張によると、デフレにより民間の投資意欲が減退しているため、国が公共投資を行い、GDPの成長率を高くして、GDPに対する債務の比率を低くするのが政策的によいと書かれています。国の債務以上にGDPの成長率が高ければ、相対的な国の債務は減少します。
たとえば、GDPが500兆円、国の債務が1000兆円とします。話をわかりやすくするため、100兆円国債を発行して公共事業を行ったとします。そうすると、国のGDPは600兆円、国の債務は1100兆円となります。ここでは話を単純化するために乗数効果は考えないことにします。
そうするとGDPに対する債務の比率は2から1.83に減少し、GDPに対する国の債務の比率は減少します。実質的な借金が減るわけです。これを続けていけば、理論的には比率は1に近づいていきます。
これはどのようなことか考えてみると、実質的な現金の価値が減っていることになります。日本では現金の多くを持っているのは高齢者ですので、高齢者から若年者に資産が移転していることになります。そう考えると、公共投資は高齢者に偏っている現金を若年者に配分するという意味もあるかもしれません。
小泉政権の構造改革には、既得権益者が存在することによって生じている生産性の低さを改善するという目的もあったと思います。既得権益者は高齢者が多いので、構造改革は高齢者から若年者に資産を移転する役割もあったはずです。
著者は小泉政権に対して真っ向から反対といった論調で本書を書かれていますが、高齢者から若年者に資産を移転するという意味においては、両者には共通している点もあります。
ただし、構造改革は供給面で、公共投資は需要面でという違いはあります。本書では対立的に書かれていますが、この二つは補完的に作用するので、おそらく一番よいのは構造改革により生産性を上昇させつつ、公共投資により高齢者のお金を若年者に配分することではないでしょうか。
ただし、公共投資をするのであれば、本当に投資としての意味があることをするにこしたことはありません。今の日本において意味のある公共投資ができるかどうかは一つの論点ではあり、そこが一番の問題であると思います。