2008年12月15日

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『世界経済危機 日本の罪と罰』4

野口 悠紀雄著  2008年12月11日発行  1575円(税込)

世界経済危機 日本の罪と罰世界経済危機 日本の罪と罰
著者:野口 悠紀雄
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2008-12-12
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野口悠紀雄氏の新刊です。本書は連載をまとめたものではなく、書き下ろしのようです。今回の金融危機と日本経済への影響について、的を絞って書かれています。

本書は今までの野口氏の日本経済についての考察の延長線上にあり、著者の今までの本を読まれている方には初めて聞く話ばかりではないかもしれませんが、今回の金融危機について氏がどのように考えておられるかを知る上で参考になります。



本書の目次は以下の通りです。

序章 100年に一度の経済危機

第1章 崩壊した日本の輸出立国モデル

第2章 アメリカを襲った金融危機の本質

第3章 モンスターを生んだアメリカの過剰消費

第4章 対米黒字の還流がグローバルなバブルを生んだ

第5章 原油・食料品の価格は解消したのか?

第6章 世界経済と日本経済はこれからどうなるのか?

第7章 これから本格化する経済危機にいかに対処すべきか?

前半は野口氏のいままでの主張通り、日本がモノ作りを中心とした輸出立国に偏っていること、輸出企業を保護するため円安誘導なりやすいバイアスがかかりがちなこと、そのため生産性の低い古い産業構造が温存されてしまっていることなどが述べられています。

今回の金融危機でダメージを受けるのは、アメリカよりもむしろ日本であるとされています。もともと日本が脆弱な産業構造を持っているからということです。そして、日本人がその構造を変化させようとしないということもあります。

今回の危機はチャンスとも書かれていますが、バブル崩壊から今までの流れを振り返ると、日本はそう簡単には変わりそうにもありません。ただ今までと異なるのは、アメリカが弱くなるかもしれないため、今までのようにアメリカばかりを向いていればよいわけではなく、自立しないといけないという切迫感が生じるかもしれないことです。

本書では、金融危機はあるもののアメリカはまだまだ強いと書かれています。Googleなどの新しい形態の企業が育ってきているからです。野口氏は以前からITや金融工学を評価されています。今回のような問題はあったにしろ、日本も金融の発展を目指すべきであるとされています。

野口氏によると、今回の金融危機はデリバティブなどの金融工学自体の問題ではなく、むしろ金融工学が不完全に用いられたことによるものであり、むしろこれからもさらに金融工学を発展させるべきであると書かれています。

本書では野口氏にしてはめずらしく、資産運用について書かれています。おそらく著者はあまり書きたくなかったのではないかと想像しますが、時期的に必要な部分だったのかもしれません。

今最もよいのは、自分自身の教育への投資であるとされています。これは今にかぎらず、いつでも成り立つ考え方であると思います。

現時点での金融資産への投資は推奨されていません。資産は現預金で保有しておき、状況が安定して成長への流れが見えてから、株などの金融資産に投資されるように奨められています。あえて落ちてくるナイフをつかむ必要はないとされています。

このあたりについては人によって異論があるかもしれません。安心して投資できるときは、株価はそれなりに高くなっています。ただし、著者はこれからの世界経済、とくに日本に対して悲観的なので、あえて金融資産への投資は奨めないのでしょう。そもそも現在の時点で本を通じて金融資産への投資を奨めても、著者の書き手としてのリスクが大きすぎます。

経済の分析については歯切れがよいのですが、投資について歯切れが今ひとつよくないのは、もともと著者が市場の予測をされる立場の方ではないからでしょう。株価の動きついては予測できないという効率的市場仮説の影が見え隠れします。

ただし、もしも市場が正しいのであれば、著者の今後についての悲観的な見方も市場に織り込まれているので、現在は十分に株価が安くなっている可能性もあります。

本書で疑問に思ったことを一つ。アメリカやイギリスが純債務を抱えていながら、プラスのリターンを得られていることを、マイナスがプラスを産むとされています。しかしながら、これは個人の信用取引を考えると不思議ではありません。

500万円分の金融資産が口座にあり、700万円を借りて全部で1200万円の資産を運用していることを考えます。この状態は200万円の純債務がありますが、この状態がプラスのリターンを産んでも不思議さは全くありません。

このような構造のバランスシートである企業はいくらでもあります。純債務があるといっても、自己資本が50%未満の状態で運用をしているだけで、必ずしもマイナスがプラスを産んでいるわけではありません。

本書における資産運用についての記述は一つの参考意見ですが、著者が過去に書かれている日本経済についての分析は、現在から振り返っても十分に傾聴すべき話が多かったので、本書に書かれていることも十分に留意したいところです。



investmentbooks at 23:54│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--日本経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
このブログについて
2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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