2008年12月17日
『超簡単 お金の運用術』
山崎 元著 2008年12月30日発行 735円(税込)
超簡単 お金の運用術 (朝日新書)
著者:山崎 元
販売元:朝日新聞出版
発売日:2008-12-12
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著者は株式投資などの資産運用について、辛口なそして本質を突いた本を数多く書かれている方です。個人として資産運用に関わるのであれば、本書でなくてもよいのですが、著者の本は読んでおきたいところです。
本書における語り口も、今まで通りシニカルなユーモアに溢れています。本文のところどころに、カッコで著者の内面のつぶやきが挿入されていますが、そこにも味わいが感じられます。
本書は大きく二つに分かれています。一つは、タイトルの「超簡単」な「お金の運用術」について、そしてもう一つは一般的なお金や資産運用、経済にまつわる10のレッスンとなっています。
最初に以下のように書かれています。
「本書の目的は、
- 極めて簡単だけれども、
- 現実的にはほぼベストに近くて、かつ、
- 無難なお金の運用方法を、
読者にお伝えすることにある。」
そして、その運用方法の基本型は以下の通りです。
- 当座の生活に必要なお金(たとえば生活費三ヶ月分程度)を銀行の普通口座に置く。
- 残ったお金は、全額内外の株式に投資するETFに、国内株四割、外国株六割の比率で投資する。
- 大きな支出の必要が生じたら、2を躊躇なく部分解約してこれに充てる。
非常にシンプルです。これを実践しようと思われている方は、実際に本書を読まれることをおすすめします。本書には、年金や保険を含めた発展型が書かれており、より実用的に説明されています。また、具体的なETFの銘柄についても、読み手の立場に立って具体的に挙げられています。
また、気を付けないといけないポイントもいくつかあり、たとえば上記の3で「躊躇なく」とありますが、これにも深い意味があります。
類書と異なる上記の方法の特徴としては、債券や不動産への資金配分がないことです。その理由についても、人的資本の面などから解説されており、参考になると思います。
本書にあるシンプルな方法は、資産運用のような「わずらわしいこと」になるべく時間を取られたくない方に向けて書かれている面があるからです。
たしかに本書にある方法は、理論的にシンプルでパワフルだと思います。自分で運用しても、あるいはプロに任せても、上記の方法より高いパフォーマンスを上げるのは容易ではないと思います。
個人的には、投資や資産運用について勉強するのは、経済の仕組み、人間の欲望や価値観について洞察を深めることができるので、仕組みを理解せずに資産運用をするのはもったいないとは思いますが、人生にはより面白いことやより重要なこともたくさんあるとも思います。
著者の本は、基本的に読者の利益になるように書かれています。資産運用について説明してある情報は、さまざまな利害や立場を通じて書かれていることも少なくありません。必ずしも一番情報の受け手が最もメリットを受けるようにはなっていない中で、著者の本は貴重です。
著者も金融業界にいる方なので、おそらく完全に周囲の環境からフリーではないと思いますが、逆に自分自身の位置を最も本の読み手の利害と一致するようにポジショニングされているのでしょう。これは自分自身にストレスがたまらないキャリア戦略であると思います。
まだまだ十分とは言えませんが、それにしてもわが国における資産運用の環境はここ10年で非常に良くなりました。自宅からネットを通じて、ローコストで手数料の安い国外株式へのETFに投資できたり、安い保険料でネット生保に加入できたりといった、しばらく前ではあり得ないようなことが現実となっています。
インフラが整いつつあるので、あとは個々人の金融リテラシーを高めるのが重要です。本書はシンプルでパワフルな手法を学びつつ、金融リテラシーを高めることができる本です。
また、現在進行形の「金融危機」に対する著者の考えなども書かれており、一つの見方として参考になります。
本書は簡単には書かれていますが、見えない部分にファイナンス理論が隠れており、本当の意味において本書が理解できれば十分に金融リテラシーが理解できていると言えるのではないかと思います。