2009年01月08日

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『経済学はこう考える』4

根井 雅弘著  2009年1月10日発行  714円(税込)

経済学はこう考える (ちくまプリマー新書 100)経済学はこう考える (ちくまプリマー新書 100)
著者:根井 雅弘
販売元:筑摩書房
発売日:2009-01
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中高生向けのシリーズである、ちくまプリマー新書の新刊です。著者の御専門は現代経済思想史ということで、本書も経済史的な観点から、ケインズを軸にして経済学の考え方について説明されています。

中高生向けということで、簡明には書かれていますが、必ずしも簡単な本ではなく、経済学を専門に勉強していなければ、一般の大人でも読みごたえのある本です。



本書は全部で四つの章から成ります。第1章はケインズの師匠筋のマーシャル、第2章はケインズ、第3章はケインズの愛弟子の女性経済学者であるJ・ロビンソンにを中心にそれぞれの思想について簡潔に述べられており、最後の第4章はフリードマンやハイエクについても言及しながら、資本主義と社会主義をめぐる考え方について簡単に解説されています。

今回の金融危機をきっかけに、行き過ぎた市場原理主義への反省から、ケインズについて話題になる機会が増えるのかもしれません。それどころか、一時期は葬り去られたと思われたマルクス主義の本までも書店で見かけるようになりました。

自由と規制、富の集中と配分については、本質的にどちらが全くなくなるという性質のものではないので、時代によって流行があるのでしょう。

ケインズについても、ケインズ主義と言われ、どうしても公共投資とのからみでよく話題になりますが、本人が亡くなった後では、生前に影響力のある人ほど、その人が生前に言ったことや書いたことが一人歩きします。

基本的に思想や学説などの言葉によって明示的に表現されたものは、その思想や学説を述べた人とその時代環境との接点の部分で形成されます。それは言葉によって表現されるので、その人が意識していたことが表現されることになります。

意識されているものは、その人の無意識と周囲の環境との接点であり、その接点を後の人がその人の思想や学説と考えているに過ぎません。

時代環境が変われば、その人が主張することも変化するでしょうし、場合によっては全く反対の考え方に変わってしまうこともあります。たとえば、ケインズが現在まで生きていたとしたら、時代の変化に応じて思想や学説は変化していたことでしょう。

後世に大きな影響を与えるような人物は、思考に柔軟性がある人であることが多いと思います。変わらないと考える方が不自然です。

そのように考えると、その人物の弟子がその人物が以前に言っていたことに固執するのは、場合によってはその人物の意向と反することをしている場合すらあります。

ケインズに限らず、マルクスが現在生きていれば昔と異なった主張をしていると思われますし、経済思想家に限らず、哲学者や宗教家も同様です。シェイクスピアが現在に生きていれば、現代に合わせた作品を創作しているはずです。

ある人の考えは、言葉として表現された瞬間に他者によって固定されてしまいますが、人間は固定しているものではありません。言葉は伝達の際に意味を固定してその人が伝えたいことのブレを少なくするので、コミュニケーションの重要な手段ですが、コミュニケーションの範囲を超えて固定してしまうと、かえってコミュニケーションの障害になることもあります。

ケインズを見直すということは、ケインズの本にどう書かれていたかということではなく、ケインズが生きているとしたらどのように考えるかということを考えることです。著書に書かれていることだけで自分が判断されるのは、ケインズに限らず誰の本意でもないと思います。

ちょっと話が本書からそれてしまいましたが、本書はケインズを軸に経済学について考えるために役立つ本です。ケインズについては、最近は否定的に語られることも多いのですが、これからトピックにはなると思うので、議論の土台を作るためにも本書はよいと思います。



investmentbooks at 23:56│Comments(0)TrackBack(1)clip!本--経済学 

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1. 経済学はこう考える (ちくまプリマー新書)  [ 書評リンク ]   2009年01月09日 23:56
書評リンク - 経済学はこう考える (ちくまプリマー新書)

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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