2009年01月18日
『坐る力』
齋藤 孝著 2009年1月20日発行 756円(税込)
坐る力 (文春新書 681)
著者:齋藤 孝
販売元:文藝春秋
発売日:2009-01
クチコミを見る
まだ書影がありませんが、文春新書の新刊です。伝統的な身体論に関する自己啓発的な著作を数多く書かれている著者ですが、今回は「坐」をテーマにされています。
本ブログを読まれている方は読書好きな方が多いと思いますが、多くの場合、読書は坐ってするものです。著者も学者をされており、読んだり書いたりして過ごされる時間が長いので、昔から「坐る」ということには関心をお持ちであったようで、本書はその関心の結実です。
坐る、立つ、歩く、寝るなどの日常生活における基本的な動作は、基本的であるがゆえに改めて考え直すことのない事柄です。意識的に取り組まないと、一生考えずに終わってしまうこともあり得ます。
なんらかの武術や芸事をされている方であれば、それらのことについて意識する機会あると思いますが、むしろ武道や芸事は身体について意識するために存在している可能性すらあります。
著者は「道」や「修行」の視点が強い方ですが、本書も「坐る」ということに関して、東洋的な解説が豊富に見られます。「坐」については、宗教的な身体論の視点から『「坐」の文化論―日本人はなぜ坐りつづけてきたのか (講談社学術文庫 (665))』がありますが、本書でも良書として紹介されています。
本としては著者の本の方が一般向けには実用的で読みやすく書かれていると思います。著者の本の役割は、上記のような本のエッセンスをわかりやすい形で多くの人に再発見してもらうことにもあると思います。
身体が重要なのは、もちろん日々の生活において体そのもののが大切な存在であるからですが、そのことと同じくらい、あるいはそれ以上に身体が重要な理由は、身体は精神と関係があるからです。
身体と精神は関係あると書きましたが、関係あるというよりもむしろ同じものの表裏であり、本質的には切り離せないと考えた方がよいかもしれません。
よって身体をよい状態にしたいと思って行き詰まってしまっている場合は精神からアプローチするのがよいですし、精神を向上させたいと思ってうまくいっていない場合は身体から調整すると突破口が開けるかもしれません。
つらいことがあって悩んでいるときに1時間のカウンセリングを受けるよりも、身体のツボを1分刺激してもらった方がよいことすらあると思います。
本書では名作イスが写真付きで紹介されているページもあります。必ずしも機能性だけ紹介されているわけではないようですが、本を読むのが好きな方であれば、イスにはこだわりたい方も多いと思います。
デスクワークが多い現代人にとって、坐るということを一度は考えておくことは、坐る時間が長い仕事人生における効率や身体の状態の改善につながると思います。本書の内容を理解することは、坐ることについて意識的に考えるきっかけになると思います。