2009年01月25日
『世界は感情で動く』
マッテオ・モッテルリーニ著 泉 典子訳
2009年1月30日発行 1680円(税込)
世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
著者:マッテオ・モッテルリーニ
販売元:紀伊國屋書店
発売日:2009-01-21
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タイトルと装丁から分かる方もいらっしゃると思いますが、本書はベストセラーとなった以下の本と同じ著者によるものです。
本書の原書版は昨年度に出版されており、前著がよく売れているためか、すぐに翻訳出版されたようです。日本のことを意識されている話がわずかですが出てくることから、本書は日本語に訳されることを念頭に書かれたことが想像できます。
本書は350ページ以上あり、ボリュームがある本です。全部で40個近くのトピックスが収められています。サブタイトルに「行動経済学からみる脳のトラップ」とありますが、経済行動学に限らず人間の脳が陥りやすい認知面でのトラップの話が数多く収められています。この分野におけるおもな話題はほとんど説明されていると思います。
行動経済学の本を読まれた方は、本書の内容がすべてが新しいないようではないと思いますが、有名な話も話を面白くしようとする著者の工夫が随所に見られるため、読み物として楽しめます。ただし、科学的研究の解説は理解に労力が必要な部分もあります。
行動経済学の本は、多くの本で内容が共通している部分が多いのですが、これはこの分野がまだまだ未発達でこれからさらに発展することを暗示しているのかもしれません。
本書の内容は学問としては比較的新しいのですが、さまざまな「現場」においては、一部の人々がすでに経験的に認識して利益の源泉にしているようなことです。全体からするとわずかですが、投資についての話も少しは出てきます。
本書に載っているような人間の性質は非合理的と言われることが多いのですが、本来は合理的だった性質です。社会が複雑化したため、合理的だったものが非合理的になってしまいました。
ヒトは理性の機能を進化させることにより地球上で優位な存在になりました。理性の特徴は際限のない創造性ですが、それだからこそそれ以外の原始的な部分がその際限のなさについて行けず、ギャップが大きくなり、理性が突出しすぎてしまっています。
そのギャップによっても苦しめられているのですが、優位にさせてくれた理性が発展したために苦しみがもたらされているところがあり、それだけに問題の解決を難しくしています。
今回の金融危機の原因も、金融工学という理性による技術に、理性以外の部分がついて行けずに生じた面があります。今回の金融危機は、人間が本質的に有している理性とそれ以外の部分を調和させるという大きなテーマを示しているのかもしれません。
人間のこれからの進化のテーマは理性を越えることだと思いますが、行動経済学や認知科学などの学問を足掛かりにして理性を越えることは、理性によって理性を越えようとする試みです。果たしてうまくいくかどうかですが、長い先にならないと分からないことでしょう。将来的には、今からは想像できなような方法で乗り越えている可能性もあります。