2009年01月28日
『世界がドルを棄てた日』
田中 宇著 2009年1月30日発行 1680円(税込)
世界がドルを棄てた日
著者:田中宇
販売元:光文社
発売日:2009-01-23
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著者は10年以上前から独自に世界中のメディアから情報を収集して、オリジナルな分析と考察を加え、インターネットを使って情報を発信し続けている方です。4〜5年前によく本を出版されていた印象がありますが、最近ひさびさに著書が2冊出版されました。本書はそのうちの1冊です。
著者が書かれている内容は、昔から国としてのアメリカの衰退と凋落が中心になっていますが、最近立て続けに著作が出版されたのは、ようやく著者が以前から主張されていたことが、一般的に受け入れられる時代の潮流になってきたからかもしれません。
本書の目次は以下の通りです。
- 自滅する米金融界
- G20で始まる通貨の多極化
- 覇権の歴史と多極化
- 金融崩壊の経緯
- 五重苦の米経済
- アジアに基軸通貨ができる日
- オバマ政権下のドル崩壊と日本の覚醒
本書では、大英帝国の覇権時代以前から現在までの世界の流れを、御自身の仮説に基づいて再構築されています。ここ100年くらいについては、以下の視点が著者の軸になっています。
「第一次大戦以来、人類の歴史の隠された中心は、英国の国家戦略の発展型である米英中心主義と、資本主義の政治理念である多極主義との相克・暗闘であり、それが数々の戦争の背景にある。」
ここ数十年どこかしらアメリカが自滅的なのは、アメリカ内部の多極主義勢力の影響であるとされており、今回の金融危機もその流れの一環で、上記の長年の対立は今回のアメリカの凋落で一つのケリがついたとされています。
資本のロジックが国家の力を越えたということかもしれませんが、そのことが資本主義の権化であるアメリカという国の凋落によるのが皮肉なところです。
著者の具体的な分析の詳細については、本書で述べられています。何が本当かということはなかなか分からないのですが、世界の情勢を分析する一つの視点として参考にはなります。
これからはアメリカの覇権支配から多極化に向かうとされています。なぜなら、その状態が世界全体が最も経済成長しやすいからです。資本の理念は高い経済成長を求め続けることです。
もしもその流れで世界が再編されるとすると、今後は今回の金融危機と景気後退が落ち着くまでのしばらくの混乱、そして混乱収束以後の世界全体による経済の高成長が予測されます。
日本については、対米従属の呪縛から解放されるチャンスであるとされています。今の日本国内を見ている限りでは、日本が「政治的に覚醒する」ようには思えませんが、今後アメリカと米ドルの崩壊が明らかになるようであれば、基本的に適応能力が高い日本は、変化することもあるのかもしれません。
本書は一つの仮説に基づいた壮大なシナリオですが、今後の世界経済の流れを予想する上で、そして日本のあり方を考えるヒントとして、参考になる点も多々あると思います。