2009年01月29日

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『予見された経済危機』4

倉都 康行著  2009年1月26日発行  1785円(税込)

予見された経済危機 ルービニ教授が「読む」世界史の転換予見された経済危機 ルービニ教授が「読む」世界史の転換
著者:倉都 康行
販売元:日経BP社
発売日:2009-01-22
おすすめ度:5.0
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本書で「時の人」として採り上げられているルービニ教授とは、2006年のIMF総会で米国を中心とした世界的な景気後退を予想した方です。専門家も含めて、当時の多くの人々は米国のハードランディングは予測していませんでした。ルービニ教授は現在も以下のブログを更新し続けています。

Nouriel Roubini's Global EconoMonitor

本書はIMF総会の雰囲気を交えながら、ルービニ教授の主張を振り返りつつ、世界経済や金融について著者の考えも同時に述べられています。話の進め方は、昨年ベストセラーになった『資本主義は嫌いですか』を思い起こさせるような印象もあります。本書に書かれている当時のルービニ教授の見通しは以下の通りです。



  1. 米国は2006−2007年にかけて景気後退に陥る。
  2. FRBは金融緩和に動くだろうが、それはリセッションを回避する効果を持たない。
  3. 新興国などは「デカップリング」によて米国リセッションの影響を受けずに済むというのは、根拠のない楽観論に過ぎない。
  4. 米国だけでなく他国でも株式や商品などの価格が下落する。
  5. 現在の米国の経常赤字は持続不能であり、他国による「ドル資産離れ」が起きる可能性がある。

今から振り返るとよく当たっていますが、それだけに話題になっているのでしょう。

当時は教授の見通しの評判はあまり芳しくなく、米国について悲観的な予測をしている方でも、ソフトランディングを予測された方がほとんどだったようです。

景気のよいときには、悲観的な見方は一般的に評判が悪くなりがちなことが前提としてありますが、他の学者の方からすると教授の予想は定量性が乏しく感じられたこともあるようです。

学問の世界では予想が当たるか当たらないかよりも、議論の論拠の合理性や緻密さなどの方が評価されることが多いようです。とくに白黒がはっきりしにくい経済学などはそうかもしれません。

人間は楽観的な予想をするバイアスがあるので、楽観的な予測が当たってもそれほど目立ちませんが、悲観的な予測が当たった場合はそのような予測をする人は少数なので際立ちます。

当たったときに目立つという点においては、戦略的には悲観的な方がよいのかもしれませんが、悲観論は一般的に好まれずその人自体も好意的に思われにくいので、楽観論と悲観論の立場は結局は釣り合っているのかもしれません。

株式市場について考えても、市場は基本的には正のリターンが期待できますが、一番変化が激しく短期のリターンが高いのは空売りのポジションの時に暴落する場合です。悲観論の立場と空売りをする人の立場は似ています。

本書も2年前に発売されていれば、予測としての価値はより高かったのでしょうが、悲観論は好まれないので、本として商業的に成功するかどうかは別問題です。出版についても、好況時は悲観論の本は出にくいバイアスがあります。

金融危機と景気後退はまだ収束していないので、本書の内容はまだまだ現在進行中です。本書は今後の予測についての記述が少ないことや、教授の過去の予測についての話があまりないことなどが物足りない面もありますが、過去の予測を通じて現状を考えるためには良い本であると思います。



investmentbooks at 23:57│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--世界経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
このブログについて
2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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