2009年01月30日

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『金融危機の本質は何か―ファイナンス理論からのアプローチ』4

野口 悠紀雄著  2009年2月12日発行  1890円(税込)

金融危機の本質は何か―ファイナンス理論からのアプローチ
著者:野口 悠紀雄
販売元:東洋経済新報社
発売日:2009-01
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書影はまだないようです。本書は『週間東洋経済』に連載されていた「説話ファイナンス理論」が元になっており、金融危機についても話題にはなっていますが、多くの部分はファイナンス理論を解説したものです。

今回の金融危機の原因として、ファイナンス理論を用いて作られた数々の金融派生商品にスポットライトが当たっています。スケープゴートにされかねない状況ですが、本書の最初の部分で著者はファイナンス理論を弁護されています。



これだけの世界的な大騒ぎの元になっているので、ファイナンス理論は強力なツールであることには間違いありません。また、これだけ発展したということは、有用な側面も多いわけであり、本書ではその実体経済における有用性も解説されています。

現代のファイナンス理論は複雑になりがちですが、金融の最もシンプルな形は借金です。信用不安はデリバティブが登場する前からよく起こっていました。信用不安が起こるからといって借金を禁止すると、経済のダイナミズムは減少してしまうでしょう。

デリバティブも同様だと思いますが、複雑になることが借金との違いです。問題としては、複雑さが破滅的な状態をもたらさない程度に管理可能かどうかということになると思います。複雑さはもともとは単なる量的な違いですが、複雑さがある一定の量と質を越えると手に負えなくなるので、その制限は必要だと思います。

自由と制限という問題は、世の中の多くの事柄に存在し、金融に限った問題ではありません。自由と制限という二項対立の問題は、議論としては白か黒かといったものになりやすいのですが、対立する二つのものがあること自体が両者それぞれの意義があることを示すので、現実的な問題の落としどころは灰色の濃さを決めるということになります。

本書の目次は以下の通りです。

  1. 世界を揺るがすアメリカ金融危機
  2. バフェットはなぜ大金持ちになれたか?
  3. ロスチャイルドの大成功
  4. エンロンの大失敗
  5. スーパースターの大失敗
  6. 市場価格は正しいか
  7. 株価はランダムウォークする
  8. 合理的な投資とは分散投資
  9. 分散投資理論の精密化
  10. 先物取引によるリスク回避
  11. 為替先物、円キャリー、FX取引
  12. オプションとそのプライシング
  13. ブラック=ショールズ式
  14. 不況債券の評価とCDS
  15. CAPMが示す深淵な投資哲学
  16. 日本は金融立国できるか?
  17. 結局のところファイナンス理論は役に立つか?

ファイナンス理論について幅広い話題が採り上げられています。なるべく数式を使わないように書かれており、平易な解説がなされていますが、本書は著者が意図されているほどはわかりやすくないかもしれません。

慣れない方に難しいのは解説の問題ではなく、新しい概念を理解する上での本質的な問題です。本質を分かっている人が分かりやすい説明を読めばすぐに分かる思いますが、初めてだと概念に慣れるまでの時間が必要です。外国語の初心者にとっては、始めはどんな簡単な文章でもスラスラとは理解できません。

本書はファイナンス理論をある程度理解している方には読みやすい本ですが、あまり馴染みのない方にはそれなりに集中力が必要です。集中して理解できると少し世界が広がると思います。

ファイナンス理論については、定義などから導き出される理論上絶対的に正しい部分と、効率的市場仮説など思想的な部分があります。本書で市場の効率性について論じられている部分は、やや納得がいかないところもあります。

ファイナンス理論の弱点は、確率・統計が元になった理論なので、現実に適応する際には、さまざま仮定が必要になることです。仮定の部分が現実に即さないと、結論を信用しすぎてしまった場合にロスが大きくなります。

たとえば正規分布を仮定しても、その仮定は正しくないかもしれません。また、過去のデータから確率を推定することがありますが、不確実性が生じることもあります。もともと確率・統計的にしか考えられないということは、不確実性を内包しているからです。

ファイナンス理論を利用する場合には、だいたいは正しいがたまに現実に即さないこともあると考えるのがよいかもしれません。これはファイナンス理論に限らず、多くのことについて言えることであると思います。



investmentbooks at 22:58│Comments(4)TrackBack(1)clip!本--ファイナンス理論 

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金融危機の本質は何か―ファイナンス理論からのアプローチ作者: 野口 悠紀雄出版社/メーカー: 東洋経済新報社発売日: 2009/01メディア: 単行本 野口悠紀夫の新作。 タイトルには「金融危機の本質は」とあるが、金融危機の解説はほとんどされていない。 本書の内容は、副題...

この記事へのコメント

1. Posted by makoto   2009年01月30日 23:15
>>もともと確率・統計的にしか考えられないということは、不確実性を内包しているからです。

いやあ、良いこと言いますね。
その精度を高めるほうに思考が向かうこともあれば、もともと不確実性を内包しているというふうに考えることもできると。

すごい分岐点だと思います。


あと、私事で恐縮ですが、僕もブログのコンテンツが一定たまりましたので、特に名言等ご覧いただけたら幸いです。
bestbookさんなら、すぐに読めると思いますので。
2. Posted by bestbook   2009年01月31日 11:57
makotoさん、コメントと記事の御評価をいただきありがとうございます。

不確実性を認識しながら精度を高めるのが、現実的にはなかなか難しいのですが、よいのかもしれません。

ブログのコンテンツ拝見させてもらいました。幅広い分野の方々から集められていますね。

名言は、魂に響いたり、その言葉をきっかけにいろいろと考えがめぐるような働きがあっていいと思います。
3. Posted by makoto   2009年01月31日 17:25
さっそくお読みくださいまして、ありがとうございます。

心に響く名言や考え方を収集することが好きなんです。

今後ともよろしくお願いいたします。
4. Posted by bestbook   2009年02月01日 22:55
言葉には力がありますが、名言はとくに大きな力がある言葉ですね。読み手と共鳴すれば、人生を変える力すらあるかもしれません。

こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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