2009年02月02日
『「知の衰退」からいかに脱出するか?』
大前 研一著 2009年1月30日発行 1680円(税込)
「知の衰退」からいかに脱出するか?
著者:大前研一
販売元:光文社
発売日:2009-01-23
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大前研一氏の新刊です。どうも最近は著者の本をよく紹介させていただいているような気がしますが、時代状況を反映しているのかもしれません。
本書は400ページを超える力作ですが、講演を聴いているような感覚で読めるような読みやすい本です。一番最初に「私流の「21世紀の日本人論」である」と大きく書かれていますが、日本人に活を入れる内容になっています。
本書の目次は以下の通りです。
- 「低IQ社会」の出現
- 官製不況の根は「知の衰退」
- 1億総「経済音痴」
- 政局と「集団知」
- ネット社会と脳
- 無欲な若者と学力低下
- 「集団IQ」を高める教育改革
- 「低IQ社会」で得をしているのは誰か
- 勝ち組から学べ
- 21世紀の教養
全体から現在の日本に対する著者の怒りや嘆きが伝わってきます。著者が長年言い続けても日本がなかなか変わる気配がなく、より衰退する方向に進んでいるように思われているためでしょう。しかしながら、本書のような本を書かれているということはまだ希望もお持ちなのでしょう。
リーダー不在の政治に対する失望感は繰り返し述べられていますが、結局は国民がどこかで変わることなく現状維持を求めているためかもしれません。著者は以下のように書かれています。
「私は、「じつは日本国民は本当の改革など求めていないのではないか」とさえ疑うことがある。「現状維持がいちばんいい。本当の改革者など出てもらったら、どんどん変わってしまってついていけない」と思っているのではないかと・・・・・。」
政治の現状は国民の内面の反映なので、結局政治を改善するには、国民の意識を改善するしかないようです。著者は自分自身が政治家となって政治の方面からアプローチすることはもう諦めておられるとのことです。
物事には時期がありますが、まだまだ日本が変わる時期は先なのかもしれません。日本国民が改革を求めていないという話がありましたが、改革を求めるためには、多くの人が困り抜いて心の底から改革を希求する必要があります。
本書は細かく読むと矛盾があるようにも感じる点もありますが、大きい方向性が間違っていなければ細かい部分はあまり問題ではないようです。現在の日本は、細かい部分にこだわって大きな方向性が定まっていないように思います。
本書で日本人の個人金融資産1500兆円を運用するという話が出ていますが、銀行に預けている預金は銀行で他の資産に変わってしまっているので、すぐには1500兆円は動かすわけにはいきません。
しかしながら、方向付けができ、少しずつでも運用が改善される方向になれば、大きく流れが変わるかもしれません。流れが変わるだけでもセンチメントは大きく変化します。
著者の他の著作にも繰り返し書かれていますが、著者はグローバル化する現代における”三種の神器”を「英語」「IT」「ファイナンス(金融)」とされています。いずれも道具です。
読んでいて教養について気になりましたが、本書では最後に著者の考える教養について述べられており、興味深いものがありました。現代の国際社会におけるの教養は昔のような文学やクラシック音楽から変わってきているようです。
全体から著者は根がビジネスパーソンであることが伝わってきます。”三種の神器”もすべてグローバルなビジネスに必要なものです。本書を読むと、グローバル化は世界全体のビジネス化なのではないかと思わされれます。著者が著者だからかもしれませんが。
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この記事へのコメント
ご紹介の本は書店で発見した時にbestbookさん
が記事にするかな〜と思っておりました。
大当たりでしたね。予想どおり記事にさせてもらいました。本書は著者らしさがよく出ており、国民と政治家に読んでもらいたい本です。