2009年03月04日
『サブプライム後の新世界経済』
中原 圭介著 2009年3月18日発行 1575円(税込)
サブプライム後の新世界経済
著者:中原 圭介
販売元:フォレスト出版(株
発売日:2009-03-05
クチコミを見る
著者の前作『サブプライム後の新資産運用―10年後に幸せになる新金融リテラシーの実践』はベストセラーになっていますが、サブプライム問題と世界経済についての著者の予測が当たっていること、読みやすく明快に書かれていることなどがその理由としてあるようです。
本書でも今後の世界経済の予測について触れられていますが、どちらかというと本書の力点は予測の具体的な内容よりも経済を予測する方法や考え方にあります。読みやすく明快なのは前著と同様です。本書の章のタイトルは以下のようになっています。
- サブプライム問題を総括する
- これからの世界経済はどうなるのか?
- なぜ、エコノミストの予測は当たらないのか?
- 経済予測力の磨き方
- 資産運用に失敗しない金融機関の選び方
- 日本経済復活への政策
今後の世界経済の回復については、著者はかなりの時間がかかると予測されています。ただし、株価の底打ちはそれほど先ではないとも書かれています。本書にはある程度の具体的な数字も挙げられています。
世界経済のエンジンはまだまだアメリカであるとされており、各国が協調してアメリカをささえるべきであるとも主張されていますが、このあたりは異論があるところかもしれません。
今回の金融危機に限らず、エコノミストの予測が当てにならないことを言われていますが、これはエコノミストが経済学や金融工学からのみ経済予測をしようとしているからとのことです。
経済予測に必要な学問は、歴史学、心理学、哲学だそうであり、著者はこれらの学問は独学されたそうです。確かに著名な投資家の本を読んだり話を聴いたりすると、これらの領域を通じての人間や市場に対する深い洞察を感じることが多いと思います。
FOMCや日銀金融政策決定会合のメンバーに、金融関係者や経済学者のみならず歴史学者、哲学者、社会学者、科学者などを入れることを提案されていますが、これは実際問題として難しいかもしれません。むしろこれらの学問について素養のある金融関係者や経済学者に入ってもらう方が現実的でしょう。
日米の経済予測についてポイントとなる指標についてシンプルに述べられていますが、ものごとをシンプルに考えるのが著者の持ち味のようです。
日本の政策についてもいくつか提言されていますが、法人税減税や消費税引き上げなどの税制改革や雇用問題への対応を重視されています。
今後も著者の予測が当たるかどうかはわかりませんが、本書は特定の業界に利益を誘導するような記述はなく、書かれていることを素直に読むことができる本であると思います。
今年の初めにパンローリング社のセミナーに行って著者の講演を聴きましたが、世界の株式市場の予測については本書と同じように悲観的な話でした。そのセミナーではいくつかの講演がありましたが、著者の講演が最も人の入りがよく、多くの人が熱心に耳を傾けていた印象があります。
市場の理解には、幅広い分野の知識や理解が必要であるという著者の話は大いに賛同できるところです。予測が当たるにしろはずれるにしろ、自分で考えてその結果をフィードバックすることは、世界に対する認識が深まる感覚があります。そのためには考え続けることが欠かせないようです。