2009年03月05日
『徹底抗戦』
堀江 貴文著 2009年3月10日発行 1000円(税込)
徹底抗戦
著者:堀江貴文
販売元:集英社
発売日:2009-03-05
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元ライブドア社長の堀江貴文氏の書かれた本です。ライブドア事件で逮捕された前後から現在までのことについて、検察とのやりとりを中心にしてつづられています。
タイトルは「徹底抗戦」ですが、これはいうまでもなく検察と徹底抗戦するという意味です。本書ではいかにしてその心境になったかについても述べられていますが、根底には「自分は悪いことはしていない」という信念を持っておられることがあるようです。
本書を読む限りにおいては、著者が実刑判決を受けるほどのことをしたような印象は受けないのですが、その司法的判断についてはこれからの行く末を見守るしかないようです。
以前のマスコミによる報道でもそうでしたが、本書から受ける著者の印象は子供的なパワーが強いことです。子供的なパワーとは、純粋さ、正直さ、一途さ、遊戯性などです。子供的といってもけっして否定的な意味ではありません。
このようなパワーが最も発揮される環境は、研究、スポーツ、芸事など一つのことをとことん極めることのできる分野です。その分野はその世界で閉じられており、その分野で純粋に道を究めて新しいことを発見したり、名人となったりするとその世界でも、そしてその外部の一般的な世界からも賞賛されます。
しかしながら、著者の歩まれた道は実業という開かれた世界であり、社会と直接つながった世界でした。純粋な子供的なパワーは、閉じられた世界にある限りは存分に力が発揮できますが、外部の世界と直接利害関係生じると、外部との関係を調整する大人的なパワーが必要になります。
とくに日本においては、大人的なパワーが必要です。就職したばかりの人にとっての大きなテーマは、いかにして大人の力を身につけるかということが多いでしょう。著者は就職せずに起業され、社会的な影響力がかなり大きくなるまで子供的なパワーで生きてこられたので、その子供的なパワーを押さえる力は国家権力くらいの強大さが必要だったのかもしれません。
子供的なパワーは閉じられた分野において、純粋にその世界での合理性を追求し、その分野の名人や第一人者はその世界を広げ、そして深めます。そのような子供的なパワーを中心にその世界は発展します。
本来はビジネスにもそのような子供的なパワーが必要とされる要素があるはずなのですが、日本においては大人的なパワーが子供的なパワーを抑圧する傾向にあるようです。本書を読むとその感を深くします。
もう少し子供的なパワーが日本社会で抑圧されなくなると、子供的なパワーが有している遊びや創造性が自由に開花し、長い目で見ると日本に活力をもたらすと思います。
大人的なパワーは利害を調整したり、物事を管理したりするには必要ですが、過度になると社会からダイナミズムを奪ってしまいます。
ホリエモンこと著者の人気が根強いのは、日本社会で抑圧されている子供的なパワーを感じさせてくれるからでしょう。多くの人は抑圧されている自分の子供的なパワーを開花させたいはずです。
ちなみにアメリカは子供的なパワーがあまり抑圧されていない国であると思います。子供的なパワーが悪く出ることもあるようですが、創造性はアメリカ社会を大きく成長させています。
日本は産業構造の変化などの構造改革が必要かもしれませんが、そのためには子供的なパワーが実業においてもうまく生かされるような環境が必要です。構造改革は大人のパワーで管理的に行うものではなく、子供的なパワーが解放できるような環境を整えると、自然になされるのものかもしれません。
大人は子供の行動自体を管理するのではなく、子供が自由に自分の可能性を発揮できるような環境を提供するのが重要だと思います。もちろん子供がやることは無駄なことや意味のないことも多いとは思いますが、その一見無駄であったり意味がないと思われることの中から、革命的な技術革新がもたらされることもあるはずです。
資本主義は一定のルールにおいて資本を増大させるというゲーム的な要素のあるものであるはずですが、どうもまだ日本ではそのようになっていないようです。ゲームの場が閉じられた世界ではないので、本来その場で発揮されるはずの子供的なパワーが発揮されにくくなっているようです。
著者が逮捕されてしまったのは、ゲームの場が閉じられていると思われていたためかもしれません。ゲームのルールをしっかりと決めて、そのルールに従ってプレイしている限りは、そのゲーム内容については大人が急に介入しないという保障がないと、思う存分ゲームはできないと思います。
これからの日本のテーマは、ゲームの場を作ること、ゲームのルールをしっかり決めること、ゲームの場を閉じられたものにすることであると思います。
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この記事へのコメント
「出る杭は打たれる」は既得権者からの抵抗があるように思いますし、杭の出し方こそが大人的パワーと言えるのかも知れません。
孫さんや三木谷さんのあり方を見ていると役者がやや上かなという感じがします。
「徹底抗戦」と「落としどころを見つけること」については後者を上に見るような気がします。
著者のブログの人気は根強く、支持できる内容です。
ただ、現実的な妥協点という部分で不足を感じるのも事実です。
何かお役にたてるかと思います。
参考までに
太陽出版
伊達浩二 著者
黄金色に輝いた道
私の母親は統合失調症です。
そして、精神科での医療事故により、生死をさまよいました。
全国の精神科の方々に是非読んでほしい作品です。
金融危機を発端とした不況下、精神病を患う方々が増えております。
精神病、特に統合失調症についての偏見をなくしたいと切に願っております。
よろしく御願いします。
コメントありがとうございます。
新興企業は初期の段階では子供的なパワーで力強く成長しますが、成長するにつれて既得権益層との利害関係が大きくなってくるので、どこかで大人になる必要があるのでしょう。今大企業になっている企業は成長するいずれかの時点で、ご指摘いただいている杭の出し方を工夫しているようです。
著者は世間的には要領が悪いということになるのでしょうが、そのあたりが魅力になって多くの人の根強い支持があるのかもしれません。
日本は良くも悪くも安定した社会なので、どうしても大人らしさが評価されるようです。大人もさらに大人になって、寛容になってもよいとは思います。
>伊達さん
御著書のご紹介ありがとうございます。
本ブログでは精神科関係の本は紹介していないので、御著書は採り上げることができないと思いますが、とりあえずは書店で拝見させていただきたいと思います。
精神科疾患を患っておられる方々、およびそのご家族の方々のつらさは日々感じていますが、そのつらさは病気そのものに加えて、お書きの通り、世間の見方もあるように思います。
精神科の疾患は、さまざまな意味において社会的な要素が大きいので、景気の影響も受けます。景気の影響はどうしても敏感な方が大きく受けるようです。
人間は自分にないものに憧れを抱き、それを持ち合わせているものに限りない魅力を感じるものだ。凡人になぜそれができないのかというと、あれこれと考えてしまって二の足を踏んでしまうからであり、ホリエモンにそれができたのはそういった一切の制約を払拭することができる能力(?)を持ち合わせていたからだろう。
そして、その制約というものの中にどうやら例外は存在しなかったようで、倫理観や法律までもが制約として取り払われてしまったのではなかろうか。でなければあれほどまでの強力な自由度と行動力を発揮し得なかったのかもしれない。
もし、これが小説の中でのできごとであったならば、堀江貴文というひとは実に魅力的な主人公であり続け、間違いなくヒーローとして昇華し得たであろう。そしてこの小説においても彼は法を犯して逮捕され、破滅するまでに至らなければストーリーは完結しなかったに違いない。
現実は小説よりも奇なり。しかし堀江貴文は実在の人物であり、彼の作り上げた世界はバーチャルではなく現実のもの。彼が罪状を否認し続けているのは往生際が悪いからではなくて、今もそして過去においても罪を犯しているという意識を持ち得なかったからであろう。そしてこれこそが堀江貴文の原動力となっていた部分なのである。
お書きの通りホリエモンの魅力は制約にとらわれない自由さと行動力ですね。ホリエモンと対立している人々も、小説の中でそのような存在に出会ったならば、もっと共感できていたかもしれません。
今回の問題は、問題そのものよりもそれを通じて国民が司法のあり方について考えるきっかけになることもよいと思います。