2009年03月12日
『バリの賢者からの教え〜思い込みから抜け出す8つの方法』
ローラン・グネル著 河村 真紀子訳
2009年3月25日発行 1575円(税込)
バリの賢者からの教え~思い込みから抜け出す8つの方法~L’homme qui voulait etre heureux
著者:ローラン・グネル
販売元:二見書房
発売日:2009-03-02
おすすめ度:
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フランスでベストセラーになっている本です。本書は物語の形式で書かれている自己啓発書であり、主人公がバリ島の老治療師から一週間かけて「思い込み」から抜けだす心構えを学ぶ内容になっています。
バリの自然と融合した神秘的な環境の描写が、内面に沈静する雰囲気を盛り上げており、読んでいるうちに異空間に引き込まれるような感覚を抱かせます。
本書は原書でも昨年出版されたばかりのようです。本書は著者の処女作のようですが、完成度が高いと思います。その完成度の高さは、著者が世界中を旅した経験に基づいているのかもしれません。
本の装丁や挿絵もセンスがよく、書店で平積みになっていると目にとまりやすいと思います。本書が売れるかどうかはわかりませんが、読む人のことを考えると、書店で売れて多くの方に目を通してもらいたい本です。
物語の形式で書かれている自己啓発書には、本書のような人生に対して深い洞察を持った老人がしばしば登場しますが、これはユング心理学における「老賢人」という原型を思い起こさせます。
「老賢人」は原型の一種ですが、知恵によって人生を変化させる必要があるときに、無意識の働きとしてこのイメージが登場しやすいと思います。本書の主人公はまさにその時期に相当していたと考えられます。
原型はイメージなので、必ずしも実在の人物として現れる必要はありません。イメージでもよいですし、本に登場する人物でもよいわけです。本書を読む人は実際の人物を通じてではなく、物語の人物を通じて無意識の原型により意識が刺激を受けることになります。
そのように考えると、実際の人物でも物語の人物でも本質的には同じです。本書の読者は本質的には本書の主人公と同じ体験をしています。書物が心の琴線に触れると人生に変化をもたらすことがあるのは、このように考えるとわかりやすいかもしれません。
無意識に刺激を与えるという点においては、むしろ現実的なものより非現実的な漠然としたものの方が影響を与えやすい場合があります。実在の人物より絵の中のイメージの方が、そして絵の中のイメージより物語の漠然としているイメージの方がより刺激になることすらあります。
現実の人物から影響を受ける場合でも、具体的なその人物から受けるというよりも、その人物のイメージや雰囲気がより大きな影響を与えていることもあるでしょう。明確なメッセージほど伝わりやすいというわけではなく、むしろ明確でないメッセージの方が大きな影響を与える場合も多いようです。
心に響いてこないときは意味をはっきりさせてより理解したくなりますが、別の形で「理解」したほうが実は伝わりやすいことがあります。多くの自己啓発書が物語の形式になっているのはこのためかもしれません。