2009年03月15日

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『バフェット流投資に学ぶこと、学んではいけないこと』5

ヴォハン・ジョンジグヨン著  平野 誠一訳

2009年3月12日発行  1890円(税込)

バフェット流投資に学ぶこと、学んではいけないこと―個人投資家にとっていちばん大事なノウハウバフェット流投資に学ぶこと、学んではいけないこと―個人投資家にとっていちばん大事なノウハウ
著者:ヴァホン・ジョンジグヨン
販売元:ダイヤモンド社
発売日:2009-03-13
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原書のタイトルは『Even Buffett Isn't Perfect: What You Can - and Can't - Learn from the World's Greatest Investor』(バフェットでさえ完璧でない:世界で最も偉大な投資家からあなたが学べること、学べないこと)です。原書のサブタイトルは少し変更されて日本語のタイトルになっています。

原書のニュアンスは、バフェットの偉大さを前提としており、その上でバフェットの投資方法の限界、特殊性、失敗、問題点などを議論しています。あくまで肯定的に捉えた上で、問題点など一般的に話題になっていない点に焦点が当てられており、そのような意味において本書は貴重です。



序章は「バフェットにまつわる神話と現実」となっており、以後の各章のタイトルは以下の通りになります。

  1. バフェットは分散投資に転向したのか
  2. バフェットはバリュー株しか買わないのか
  3. 長期ならバリュー、短期ならグロース
  4. 株と結婚してはいけない
  5. バフェットは最近どんな企業を買ったか
  6. バフェットの失敗例に学ぶ
  7. バークシャーのコーポレート・ガバナンスと後継者問題
  8. バフェットとストック・オプション
  9. バフェットは増税論者か
  10. 企業による業績見通しの公表は不要か

最終章が「変わり続けるバフェット」となっています。

バフェットの投資哲学に興味を持っている人が気になっているにもかかわらず、あまり本で触れられていない部分に焦点が当てられているので、バフェットに興味がある方であれば、本書は興味深く読める内容であると思います。

本書が出版されたのは2008年であり、執筆された時期はだいたい2006年から2007年にかけてと思われます。本書には金融危機の影響については述べられていません。

バフェットの言葉は数多くあるので、言葉が一人歩きしていることもありますが、最終章のタイトルにあるようにバフェットは変わり続けています。本書では以下のように書かれています。

「彼を適切に表現するラベルは存在しないのだ。おまけに、やっと彼のスタイルを理解できたと思っても、そのスタイルはすぐに変化してしまう。」

市場は常に変化し続ける世界を反映するので、固定的になることは適応的ではありません。人はバフェットの投資方法についても固定的に理解しようとしますが、それは正確な理解を妨げます。

バフェットを固定的に理解できるかどうかがまずは問われるべきであり、本書で著者が最も主張したいことはそのような問題提起であると思われます。

しかしながら、「バフェットの変わらない三つのもの」も挙げられています。

  • 保険事業を愛していること
  • 質の高い経営者を雇うこと
  • 割引キャッシュフロー分析を頼りにしていること

これらすらも、著者の視点を通じて分析されたバフェットという感じを受けてしまいます。

バフェットの投資哲学は本人の言葉によってやさしく語られていますが、言葉は理解できても同じようにするのは容易ではありません。言葉で理解できることと実践できることは別です。

投資金額を考えると、真似ができるのであれば、一般の個人投資家は小型株に投資できたり、自分の売買で株価を上げる影響がほとんどないぶん、バフェットよりも有利なはずです。

容易に真似できないことがバフェットのリターンをもたらしており、バフェットが大きなリターンを得ていることが容易に真似できないことを表しています。容易に真似ができれば市場でのバフェットの優位性はなくなってしまいます。

バフェットの投資哲学について考えるときは、投資哲学そのものよりも、なぜ人が同じようにできないかを考察する方が問題の本質に迫れるかもしれません。

個人的にはバフェットの傑出した特質は不安に対する耐性であると考えてます。本書では忍耐力と書かれていますが、株式投資における忍耐力の本質も不安に耐えることです。

また、バフェットが購入している多くの銘柄を深く分析すると、人間の不安の解消が利益に結びつけている企業の株式を保有していることが分かります。

多くの人がバフェットの投資哲学を固定的に理解したくなるのも、固定的に理解することで不安を解消するためです。人間は固定的に捉えられないものについては不安を感じてしまいます。

バフェットを本質的に「理解」するということは、他者の不安を理解し、自分の不安を克服することです。けっして理性だけで投資哲学を理解することだけではありません。株式投資における自分自身の不安を克服できたとき、初めてバフェットを理解できたと言えると思います。

逆に考えると、バフェットと同じようにできる人がほとんどいないということは、人間の不安はそれだけ根深く根源的であるということでしょう。



investmentbooks at 23:44│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--株式投資 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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