2009年03月25日
『コメ国富論―攻めの農業が日本を甦らせる!』
柴田 明夫著 2009年4月5日発行 1890円(税込)
コメ国富論―攻めの農業が日本を甦らせる!
著者:柴田 明夫
販売元:角川SSコミュニケーションズ
発売日:2009-03
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著者は商社の研究所の所長をされている方で、資源や食料についての著作が多い方です。ここ数年、精力的に本を書かれている印象があり、著書が書店で目立ちます。
本書はコメを中心に、日本の農業問題や食糧自給率の問題について、国際的な視点からも論が展開されています。本書の各章のタイトルは以下の通りです。
- 日本農業の危機を認識せよ
- 日本農業壊滅の根はここにある
- 「農業解放」が日本の未来を開く
- 日本のコメを世界へ
現在は金融危機による景気後退の影響により、しばらく前まで高騰していた資源価格は一服しています。
著者によれば、金融危機が収束すると、インドや中国の人口が多い新興国は経済成長を長期的に続けることが予測されるので、食料は長期的に不足する傾向が続くとされており、その世界経済観が本書の根底にあります。
世界的に食料が不足する中で、日本の農業は長期的な衰退傾向にあるため、今後食糧不足によるパニックが生じるかもしれないとされています。
日本の農業問題については、農村の集票が政治家の方の政治基盤になっていることがあるので、改革は難しいことも書かれていますが、それでも構造改革の必要があるとのことです。
日本の農業の問題点は、人、土地、資本など全ての点において流動性が低いことのようですが、流動性を低めることが票の流動性を低めて選挙の結果を確実なものにするので、日本の農業問題は政治問題とも言えるかもしれません。
また、政治は投票者の意向を反映するので、政治問題は農業問題であるとも言えそうです。政治を変えれば農業が変わるかもしれませんし、農業を変化させると政治が変化するかもしれませんが、お互いに相手を固定しあっているので、農業も政治もすぐに流動化させることは容易ではなさそうです。
順序としては、国民が問題意識を持って政治を変え、政治が農業を改革するということになるのでしょう。あるいは、今後の食糧危機により国民が農業に問題を持って、それが政治を変化させるかもしれません。
そう考えると、食糧不足は人間にとってかなり深刻な問題なので、今後の食糧問題は日本の政治を変化させる好機になるかもしれません。なかなか変わらない日本の政治ですが、政治を変えたのは食糧不足であったという将来もあり得ます。
比較生産の考えからすると、日本は工業製品を作る方がよいのかもしれませんが、食糧が不足してくると理論の前提となる自由貿易の前提が崩れることも十分に考えられるので、今後の食糧問題については戦略的に考えた方がよさそうです。
本書では食糧自給率という守りの視点だけでなく、高品質の日本の農産物を海外に輸出する戦略も語られています。
しばらく前から、少しづつですが、書店のビジネス書コーナーでも農業関連の本が見られるようになりました。最近では、電車の広告でも農業への転職を勧める本の広告を見つけることができます。
一服している食糧・資源価格ですが、現在は嵐の前の静けさなのかもしれません。