2009年03月29日

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『大転換―脱成長社会へ』4

佐伯 啓思著  2009年3月30日発行  1680円(税込)

大転換―脱成長社会へ大転換―脱成長社会へ
著者:佐伯 啓思
販売元:エヌティティ出版
発売日:2009-03-23
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著者は経済学者ですが、思想的な観点からの本を多く書かれています。本書も単に経済のことが書かれているだけではなく、経済思想によって世界の歴史を捉えなおした視点から、現在の状況が「大転換」の時期であるという主旨になっています。

本書は一ヶ月程度で急いで書かれた本のようです。口述がもとになっており、そのため話し言葉のわかりやすさがあります。著者御自身が書かれているように、論理の厳密さなどにはこだわられていないようですが、その分自由に考えたことが述べられており、かえって興味深く読めます。



経済学のような生きた世界を対象とする分野は、論理的な厳密さを追求するほど現実から遠ざかってしまうという、不確定性原理のような点があるので、本書くらいが最も面白いのかもしれません。

本書の要点は、著者が最後の方で簡潔に10個にまとめられていますが、ここではその10個をさらに要約してみます。

  1. 今回の金融危機は、ブッシュ経済政策の失敗、新自由主義と金融グローバリズムの破綻、近代社会と産業主義の限界の、短、中、長期の三つが重なっている。
  2. グローバライゼーションはいままでもあったが、今回のグローバライゼーションはアメリカの事情によって生じたものである。
  3. アメリカが普遍性を信奉する技術主義と自由・民主主義は、ニヒリズムに陥る可能性を強く持っている。
  4. 日本の構造改革は生産要素の徹底した市場化・流動化であったので、その問題は労働、自然資源、貨幣という生産要素のレベルで生じる。
  5. 新自由主義が否定したケインズ主義による公共投資は、もともとはグローバルな金融市場の不安定性から国内の投資と雇用を守るための方策であった。
  6. アメリカ経済学の誤りは、「市場経済」をひとつの完結したシステムと見なすところにある。「市場経済」の背後には「社会」がある。
  7. 今日の経済の最大の問題は、先進国の産業主義的な成長モデルが限界に達しているところにあり、今後は「脱成長社会」を構想する必要がある。
  8. 「脱成長社会」は「脱工業社会」であり、市場競争中心の社会ではなく、「公共計画」によって、新たな社会的インフラを整備し、生活の「質」を問うような社会である。
  9. 「脱工業社会」は、医療、教育、都市環境の整備、都市や田園の美観、自然環境の保全、社会的なリスクの軽減といった「社会」の基盤の確保に関わる社会である。
  10. 「成長社会」から「脱成長社会」への転換は容易ではなく、長期的な戦略のなかで経済危機への対策を講じる必要がある。

これらの10個をさらにまとめると、市場原理による競争に基づいた成長から、生活の質を高める戦略的な公共計画に基づく大転換の時期であるということになるのでしょう。

ここ数十年アメリカ主導で新自由主義的な市場経済を中心に世界の経済が動いていましたが、今回の金融危機により見直しが入るということは確かでしょう。しかしながら、市場経済がなくなってしまうことはないでしょうし、なくすべきでもないと思います。

いままでは市場経済と公共経済の割合が、6:4→7:3→8:2のように市場経済の割合が増えてきたわけです。それが一つの限界に達して揺り戻しが生じ始めているということでしょう。

そのトレンドが変化するという意味においては、今の時期は大転換期に当たるのでしょうが、今後は単にその割合が変化するだけです。トレンドが転換して、下降トレンドにあったものが上昇トレンドになると輝いて見え、上昇トレンドにあったものが下降トレンドに転換してしまうとくすんで見えてしまいます。

トレンドが転換すると、両者はそれぞれ過大評価、過小評価されがちですが、本来いずれも必要なものです。トレンドの転換といいますが、そのトレンド自体が、人間の評価の傾向にトレンドがあること自体がトレンドを転換させているように思わせるのかもしれません。

本当はトレンドなどなく、必要なのはその時期に応じて必要な経済政策を適切な割合で用いることであると思うのですが、人間のトレンドを作りだしてしまう認知の傾向によってトレンドが生じてしまうので、トレンド自体がトレンドを強化してしまいます。

トレンドは多くの人の思いこみによって生じるので、いったんトレンドが形成されてしまうと、やはり現実的な生き方として賢明なのは、そのトレンドに乗ることなのでしょう。本書自体もそのトレンドに乗っているのかもしれません。



investmentbooks at 22:45│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--世界経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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