2009年03月30日
『ユダヤ人国際弁護士が教える天才頭脳のつくり方』
石原 完爾著 2009年1月30日発行 1470円(税込)
ユダヤ人国際弁護士が教える天才頭脳のつくり方
著者:石角 完爾
販売元:朝日新聞出版
発売日:2009-01-20
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本書の一番のウリはなんといっても、著者がユダヤ教徒に改宗されたユダヤ人であるということでしょう。ユダヤ人の思考方法などについては、ユダヤ人以外の人によって書かれた本はたまに見かけますが、本書のような本は初めてです。
日本人女性が結婚を機に改宗することは珍しくはないようなのですが、日本人男性の改宗者は「一年に一人いるかいないかの珍しい存在」だそうです。本書の目次は以下の通りになります。
- 人生を変えたユダヤの学び
- ノーベル賞受賞者の三割を出す天才頭脳の秘密
- 質問力が高まれば思考力も鍛えられる
- 大量の読書が育む「知的競争力」
- 「褒め」と「ご褒美」で成功体験を植えつける
- マルチリンガルになるユダヤの勉強法
- 「議論する」勉強は世界の標準
- ユダヤ人のビジネス感覚と発想法
- ユダヤエリートを育成する学校
- 独自性で厳しい世界を勝ち抜く
本書はユダヤ人が世界で生き抜いてきたリスクヘッジの方法が語られていますが、その方法は、勉強、語学、人と違うこと、ということだそうです。本書はそれらのことがテーマになっているわけです。
日本人の世界に対するリスクヘッジが、居住地域が海によって隔離されていること、制度を外国に対して閉鎖的なものにすること、大きなパワーを持った国に寄りかかることであったことを考えると、ユダヤ人のリスクヘッジの方法は対称的です。
今後の世界においては、日本の今までの方法でのリスクヘッジは難しくなってきそうなので、ユダヤ人の方法を学ぶ意味は大きくなるかもしれません。日本だけでなく、全世界でユダヤ人のリスクヘッジの方法が必要になってきているのかもしれません。
人間の能力を身体的なもの、頭脳的なものに大きく二分すると、ユダヤ人の方法は頭脳的なものに大きなウエイトが置かれているようです。
人間の本能として、過度に頭脳的なものにウエイトを置くのはあまり好まれない傾向があります。脳みそに汗をかくより、額に汗をかく方が、「一生懸命」で「頑張っている」印象を受けるように多くの人はなっています。
ユダヤ人の歴史を考えればこのことはよく分かりますし、現在でもユダヤ人による陰謀史観は話題になりがちですが、その背後には人間が持つこの性質があると思います。
金融業が否定的に語られるとき、虚業という言葉が用いられやすいのも同様です。ユダヤ人が金融を得意とするのは偶然ではありません。今回の金融危機を眺めると、「虚業」に対してよい感情を抱かないのは、日本人だけではないことが分かります。
ユダヤ人が有している、本書の書かれているような優れた特長を真似する場合に気をつけるべきなのは、獲得した巨大な力をどのようにコントロールするかです。
力はなければないで欲しいものですが、獲得したらしたらでその扱いが難しくなります。日本人がユダヤ人から学んで頭脳労働によって力をつけた場合、問題になってくるのは獲得したものと周囲との折り合いをどのようにつけるかでしょう。
日本では頭脳労働で得た大きな富は、自分一人で独占せずに周囲に分け与え、その代わりに名誉が得られるという生活の知恵があります。今後もしも日本人が頭脳労働によって大きな富を得た場合、そのようにできると日本は世界によい形で貢献できるのではないかと思います。