2009年04月03日

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『グリーン革命』5

トーマス・フリードマン著  伏見 威蕃訳

2009年3月19日発行  上下各1995円(税込)

グリーン革命(上)グリーン革命(上)
著者:トーマス・フリードマン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2009-03-20
おすすめ度:4.5
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グリーン革命(下)グリーン革命(下)
著者:トーマス・フリードマン
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2009-03-20
おすすめ度:4.0
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世界的なベストセラーとなった『フラット化する世界(上)』『フラット化する世界(下)』の著者であるトーマス・フリードマンの最新作です。本書も力作で、上下巻合わせて650ページ程度の大作です。

本書の原書は昨年の9月に発売されましたが、アメリカではすでに100万部を超える売れ行きであり、オバマ大統領も「熟読」したとのことです。本書からは、アメリカという国について、今後のアメリカ経済と世界経済にゆくえについて、今後の地球環境問題について、今後の株式市場についてなど、さまざまなことを読み取ることができます。



本書は大部な本ですが、著者が言いたいことは非常に明快であり、一言で言うと、「アメリカは全力を挙げて代替エネルギーの開発を進めるべきである」ということです。

本書にはまず結論があり、その結論にたどり着くためにさまざまな取材や考察をされている印象を受けます。セールスマンの目的が商品を売ることにあり、そのセールスマンの言動はすべて商品を売ることにあることと同じです。著者がアメリカ国民に代替エネルギーの開発を売り込んでいます。

そのために著者は読み手の心に訴えかけるあらゆる表現の手法を用いているように思いました。不安、恐怖、プライドなどのさまざまな原始的な感情に訴えかけたり、リアルな想像をさせたり、権威を用いて説得したりなど、読み手の心に深く作用するようになっています。

本書を日本人が読むと、ある程度の距離感を持って読むことができますが、アメリカ人が読むと、著者の結論に同意せざるを得ない方がほとんどになってしまうことでしょう。著者はピュリツァー賞を三度受賞されたそうですが、本書の表現力から納得できます。

本書を読むと、何がアメリカ人の心を強く動かすかがよく分かります。アメリカという国は、自国が普遍的に正しいことを世界に広め、その結果他国から尊敬されることを誇りに持つという心性があるようです。

アメリカが広めていたのは少し前までは金融でしたが、これからは代替エネルギーになるのでしょう。広めようとするものが変化して印象はよくなりますが、本質的な構造は変わっていません。善と悪をはっきり分ける傾向も同様であり、本書においてもイスラムや「石油独裁者」は悪として描かれています。

そもそも代替エネルギーを開発する大きな目的は、もちろん地球の環境問題はありますが、それ以外にイスラムや「石油独裁者」に石油を通じて富を移転する構造を組み替えるという大きな目的があるように思われます。

人口の多い中国やインドなどの新興国が本格的な経済成長を始めたため、石油が高くなりイスラムや「石油独裁者」に高価格の石油を通じて富が移転するようになり、反米的なイスラム国家や資源国の力が強くなる一方、アメリカの国力が弱まりつつあることが背景にあります。

本書は地球環境問題や代替エネルギーのことが書かれているのですが、戦争について書かれているような印象を受けます。代替エネルギーの開発は兵器の開発と重なります。本書を読むと、アメリカは非常事態における戦闘態勢にあるような感じを受けます。

アメリカは現在の地位を保つために何が何でも代替エネルギーの開発を行うという決意が感じられます。エネルギー戦争の布告のようにも読めます。

重要なのは、本書に書かれている環境問題についての議論の真偽ではなく、アメリカが決断したということでしょう。環境問題は複雑な問題なので、議論し始めるときりがなくなります。アメリカのエネルギー問題にはかなりの切迫感があるので、議論の余裕はなさそうです。

今回の金融危機もアメリカは大きなダメージを受けましたが、金融危機によって世界の経済成長が一時的に中断したため、エネルギー問題について体勢を立て直す数年の猶予ができました。

もしも今回の金融危機がなく、原油が高止まりしたままであれば、アメリカはエネルギーの点でジリ貧だったかもしれません。反米的な勢力にアメリカの富が移転し続ける構造が長期的に続くため、ひょっとすると、金融危機によるダメージよりも悪い状態に陥っていた可能性もあります。

金融危機では世界中がダメージを受けましたが、石油が高止まりしていれば、反米的な国家が力を増しつつ、アメリカが弱体化し続ける状態になっていたことでしょう。

今回の金融危機は、アメリカが世界のエネルギー供給の構造を根本的に変化させる期間を設けるために、意図的に起こしたと陰謀論的に考える人もいるかもしれません。

アメリカが国家の命運をかけて、本書に書かれているような考えに基づいて世界のエネルギー供給構造を短期間に転換させるつもりであれば、投資対象としての代替エネルギー関連銘柄はバブルになるかもしれません。

本書では、バブルを起こして過剰投資が起こるくらいの状態があってもよいくらいとまで書かれています。ITバブルによる過剰投資によって、世界は短期間にフラット化しましたが、今後は代替エネルギーバブルによって、世界のエネルギーが短期間にクリーンになってしまう可能性もあります。

本書において重要なのは、本書に書かれている種々のことが正しいかどうかではなく、アメリカで100万部以上も本書が売れて国民と大統領に大きな影響を与え、政策が本書の内容に基づいて現に実行されつつあるということだと思います。



investmentbooks at 23:42│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--世界経済 

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家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
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2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
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