2009年04月23日

この記事をクリップ! Yahoo!ブックマークに登録 このエントリーを含むはてなブックマーク

『ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る』4

マイケル・キンズレー編  和泉 裕子・山田 美明訳

2009年4月30日発行  1785円(税込)

ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語るゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る
著者:マイケル・キンズレー
販売元:徳間書店
発売日:2009-04-17
クチコミを見る

本書の内容はタイトルから受ける印象とは少々異なります。本書の基調となる2008年のダヴォス会議でのビル・ゲイツのスピーチが20ページ、その後のゲイツとバフェットの対談が30ページです。

その後の250ページは、ゲイツのスピーチで提唱された「創造的資本主義」について、経済学者、ジャーナリスト、政治家など各方面の錚々たる顔ぶれがネット上で交わした議論となっています。本書のメインはこの部分なので、タイトルから受ける印象とはやや異なるわけです。



創造的資本主義は本書の原題のタイトルですが、わかりやすく言うと、資本主義的なシステムを用いて貧困撲滅などの慈善事業を行うことのようです。

ゲイツが慈善事業に専念していることが本書の背景にありますが、本書ではゲイツの創造的資本主義の考え方を手放しで賞賛するような議論が行われているわけではなく、ゲイツの志は賞賛されながらも、創造的資本主義には批判的な議論も遠慮なくなされています。

批判はいくつかのポイントにまとめることができます。

まずは、創造的資本主義という考え方が漠然としていることです。資本主義自体にもともと創造性があるという主張もあり、あえて「創造的」という言葉を加えると、かえって意味が分かりにくくなるようです。

次に、企業の目的は慈善事業ではなく、株主にとっての利潤を最大化するという議論があります。むしろ、その本来の役割を追求する方が結果的に社会の役に立つという考え方です。

ゲイツ自身がマイクロソフトを経営して成長させる過程で、そのようなやり方をしているため、過去の自分の行動と合致しない考えに基づく役割を企業に対して提唱していることへの反発もあるのかもしれません。

また、途上国に援助をするのであれば、まずは自国の問題から解決した方がよいという意見もあります。自国が満遍なく豊かでないと、その影響が間接的に途上国の発展を阻害することがあるという考えです。

批判的な意見は多いのですが、もちろん肯定的な意見もあります。そのあたりを読み比べて、意見の多様性を比較してみるのも本書の読みどころです。

個人的には、慈善事業をするのであれば、企業がするのではなく、企業から株主が得た株主個人のお金で行うのがよいと思います。企業が慈善事業をしなければならない雰囲気を作ってしまうのは、ある程度まではよいと思いますが、過度になると、資本主義のダイナミズムを失わせてしまうのではないでしょうか。

本書を読むと、慈善事業はシステム作りの問題であるということがよくわかります。寄付などによりお金は集まりますが、システムが整っていないとうまくいきません。

ゲイツの創造的資本主義というのは、一つの提案ですが、いまのところ革新性はないようです。しかしながら、その提案をもとに本書にあるように本格的な議論が盛り上がり、新たなシステムを構築するきっかけになるかもしれないという点に本書の意義はあると思います。



investmentbooks at 23:58│Comments(0)TrackBack(0)clip!本--経済学 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
プロフィール
bestbook
家業再生のためしばらく書評ブログを休止していましたが、一段落したのでブログ再開します。以前は1日1冊のペースでしたが、今回の更新は不定期です。書評は以前と同じようにビジネス、投資、経済本が中心となりますが、これからはそれ以外の本の紹介に加えて、3年間集中して行った家業再生、その他アイデアだけは溜めていた多くのことを気ままに書き綴る予定です。
このブログについて
2006年に開始し2010年7月にいったん休止。2013年7月より再開しました。
以前は1日1冊のペースで書評していましたが、再開後は不定期更新で、書評以外についても書きます。
ブックマークに登録
このブログをソーシャルブックマークに登録
このブログのはてなブックマーク数
アマゾン検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
あわせて読みたい
あわせて読みたいブログパーツ